米朝首脳会談が終わると、「拉致の安倍」は正念場に立たされる。安倍晋三・首相の政治経歴の中で“勲章”といえるのが拉致問題での対応だ。
小泉政権時代の2002年、官房副長官として平壌での日朝首脳会談に同行した安倍氏は、北から一時帰国させた5人の拉致被害者を「返すべきではない」と主張し、北への強硬な外交姿勢が国民の大きな共感を呼んだ。
その功績で保守層の強い支持を得たことで2006年に首相の座に就き、2012年に再登板すると、「拉致被害者は私の内閣で最後の1人まで救出する」「拉致の解決がなければ北朝鮮との国交正常化はありえない」、そう国民に誓った。
拉致解決は安倍氏の政治家としてのレゾンデートルであり、だからこそ、米朝会談が日程にのぼると自ら拉致被害者家族に何度も面会して解決への努力を約束した。
しかし、トランプ大統領が金正恩氏と和解すれば、首相は重大な決断を迫られる。保守派の国際政治学者・藤井厳喜氏が日本にとっても、安倍首相にとっても「最悪のシナリオ」をこう予告する。
「トランプがもし米朝首脳会談で拉致問題に言及しても、金正恩が応じるとは思えない。それでも、核ミサイル交渉が進展すれば、米国は拉致問題が解決していなくても日本に経済支援の実行を求める可能性が高い。『拉致の解決がなければ北朝鮮との国交正常化はありえない』と誓った安倍首相は、拉致問題の解決をいったん棚上げして日本外交の基本である米国との協調を選ぶか、あくまで政治信条を貫いてトランプに『北への支援はできない』とNOを突きつけるかの板挟みになる」