念願のマイホームを手に入れた働き盛りの頃は、一国一城の主として、“城”の大きさや、こだわりの調度品が誇りだった。だが、住宅ローンを払い終える頃になると、子供たちはそれぞれに“城”を建てて巣立っていく。子供部屋は物置同然となり、家が広いと庭の手入れや部屋の掃除も大変、瓦の葺き替えから外壁の補修にもカネがかかる。
もしかしたら、“古城”を捨てて、引っ越しを考えた方がいいかもしれない──そんな「60歳からの引っ越し」に失敗しないための視点を探った。「終のすみか探し」コンサルタントでファイナンシャルプランナーの岡本典子氏が語る。
「高齢者の都心回帰が増えています。東京近郊なら、立川から西のエリアの広めの戸建てに住む60代夫婦などで、都心に近い駅のマンションに住み替えを考えている人が多い。ポイントは持ち家をいくらで売却できるか。これからは空き家問題が深刻化し、郊外の不便な住宅は買い手がつかないこともあり得る。今のうちに2000万~4000万円で売れればラッキーでしょう。その金額で都会に買える物件は新築ではなく中古が中心になるはずです」
ただし、それは自宅がうまく売却できた場合だ。買い換え資金が足りないのに、いざという時の蓄えまで都心のマンション購入につぎ込んで“老後破産”に向かうことになれば本末転倒である。
ファイナンシャルプランナーの小谷晴美氏は「家の買い換えに必要な資金」と「ダウンサイジングで節約できる生活費」のバランスを計算して住み替えを考えるべきだと指摘する。