史上初の米朝首脳会談がシンガポールで開かれた。トランプ大統領は会談の成果を自画自賛しているが、会談の時間は短く、共同声明への署名を前提とした、すべてが演出されたものだった。
会談の冒頭で二人は笑顔で固い握手を交わし、昼食後は通訳なしで二人だけで笑みを浮かべながら会談場のホテルの敷地を歩き、トランプ氏は自分の専用車の車内を金正恩氏に見せるというサービスまでした。
トランプ氏は首脳会談前に1分で相手を見極めると公言していたが、金正恩氏と会ってみて、交渉の相手としてふさわしいことは確かめることは出来たようだ。しかし、初の首脳会談を通じて構築された信頼関係は、トランプ氏にとっては個人的、金正恩氏にとっては表向きのものに過ぎない。
それにしても、共同声明は原則論ばかりで具体的に何かを約束するものではなかった。実現のための交渉をこれから行うというものであり、実現可能かどうかは今後の交渉に委ねられるため、場合によっては交渉決裂もあり得る。
共同声明の内容は次の4項目。(1)新たな米朝関係の確立に取り組む(2)朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築(3)朝鮮半島の完全な非核化(4)朝鮮半島の戦争捕虜/行方不明兵の遺骨回収──。これらの項目のうち(4)は過去に行われていたものであるため、北朝鮮側へ多額の費用を支払えば、すぐにでも実現できるため、トランプ氏は自分の宣伝に使うことができる。
首脳会談後に行われた、この共同声明に関する記者会見でのトランプ氏の発言は、残念ながら言い訳と自己弁護にしか聞こえなかった。記者会見を見ていて、首脳会談前に板門店で行われた米朝実務協議の難航ぶりが想像できた。
◆「戦争ムード」だった1年前
終始笑顔の二人だったが、1年前(2017年6月12日)を振り返ってみると、マティス米国防長官が議会で、北朝鮮を「平和と安全に対する最も緊急かつ危険な脅威だ」としたうえで、もし外交交渉が失敗し、軍事力を行使することになれば深刻な戦争になるだろうとして強い懸念を示していた。
今回の首脳会談が、このような懸念を払拭する第一歩となったのは確かだ。1年前は「米朝開戦説」を専門家やジャーナリストがまことしやかに流布していた時期だったこともあり、トランプ氏と金正恩氏が笑顔で握手することになるとは、誰も想像していなかっただろう。
しかし、今年11月の中間選挙を考えると、トランプ氏が「予測不能」な決断をすることは予想できた。これからも北朝鮮との「予測不能」な「政治ショー」が続くのだろう。
共同宣言には、当初の予想に反して「朝鮮戦争の終結」は含まれていなかった。しかし、避けては通れない問題であるため、本稿では「終戦」の難しさについて触れておきたい。