史上初の米朝首脳会談が成功裏に終了した。しかし、よくよく昨年の事を思い起こすと、トランプ大統領は戦略爆撃機や空母を朝鮮半島近海に展開して軍事的圧力を加え、さらにツイッターで「チビのロケットマン」などと金正恩委員長を侮辱する発言を連発していた。
あれほどまでに互いを侮辱していたのに、首脳会談での二人は笑顔を絶やさなかった。普通の人間関係なら修復不能なレベルの侮辱の応酬だったのだが、互いに過去の発言を謝罪することなく笑顔になれるのは、トランプ氏にも金正恩氏にも、それぞれ打算が働いているからなのだろう。つまり、win-win(ウィンウィン)が成り立っているのだ。
トランプ氏の金正恩氏に対する発言の変貌ぶりは、長期的な戦略のもとで熟慮しているものではないだろう。とても一貫した政治理念を持った人物によるものとは思えない。まさに「予測不能」なのだが、そのような発言や行動が大統領の権威を失墜させ、北朝鮮にバカにされていることに、米朝交渉で失敗を繰り返す前に気付くべきだろう。
◆すべてはトランプ大統領の気分次第
トランプ氏のこれまでの姿勢を見ていると、今後の交渉で何らかの合意に達したとしても、それを信頼してもよいのか疑問が生じる。
最近では5月8日、トランプ氏はオバマ前政権が締結したイランとの核合意から離脱すると発表した。そして、合意の見返りとして解除していた経済制裁を再び実行すると明らかにしたように、トランプ氏にとっては「合意の破棄」のハードルは低い。
もし、北朝鮮がトランプ氏の思い通りに動かなかったら、トランプ氏は合意の破棄をほのめかして北朝鮮を脅すだろう。また「戦争カード」をちらつかせるかもしれない。逆に北朝鮮がトランプ氏の思い通りに動き続ければ(機嫌を損なわなければ)、金正恩体制の保証を続けるだろう。
首脳会談後の記者会見でトランプ氏は、金正恩氏を素晴らしい人物だと褒めちぎっていたが、金正恩氏は自分の権力を守るためなら、多くの自国民を飢えさせ、邪魔な人物は銃殺し、20万人もの人々を強制収容所へ収容して人権を蹂躙することも厭わない独裁者なのである。
このような残虐な独裁体制の存続を保証し、独裁者を賞賛するトランプ氏は、信頼するに値する常識のある人物なのだろうか。