女子レスリングで五輪四連覇の伊調馨に対するパワーハラスメント告発が、日本レスリング協会が設置した第三者委員会と内閣府から認定されて以後初めて、6月14日に栄和人・元強化本部長が公の場に登場して会見をした。その会見で栄氏は、あらかじめ用意した文書にそって謝罪などを読み上げたが、パワハラを認めていないことがにじみ出たような受け答えぶりと、いまだ当事者への謝罪が済んでいないために非難が集まっている。ところが、この会見を協会関係者は「上出来」と褒めていた。
「会見後に、協会の人が『栄さんはすごく上手にやった。あの会見は上出来でしたよ』と笑顔で褒めそやしているのを聞いて、耳を疑いました。申し訳ありませんでしたと言って、頭を下げた時間もすごく短かったし、文書を読み間違えないようにということに気をとられているのがわかるぎこちなさだった。質疑応答のなかでパワハラの原因を『コミュニケーション不足』と繰り返し、田南部コーチに馨を指導するなと言ったこと自体は間違っていなかったと受け取れるようなことを言ってしまった。どこが上出来だったのか」(レスリング関係者)
文書を読み上げる前と、読み上げの冒頭、そして締めくくりの三度にわたって栄氏は「申し訳ありませんでした」という言葉に続けて頭を下げた。いずれも十秒あるかないかというあっさりした頭の下げ方だった。企業などの謝罪会見では45度に下げた頭を三十秒くらい上げないのが通例で、ニュースを通してそれを見慣れている人も多いため、ずいぶんあっさりした謝罪だという印象を与えた。
関東近郊で子供対象の教室で教えているレスリング指導者は、「このまま東京五輪を迎えるのかと思うと、恐ろしい」と打ち明ける。
「金メダルの有力種目だから、レスリングをやっているというだけで子供たちは誇らしげにしていたし、まっすぐに応援してもらいやすかった。でも、伊調さんへのパワハラ問題が明るみに出て以来、親御さんの不安が子供にも伝わっている感じです。小学生まではレスリングを続けるけど、その先は続けさせたくない、と保護者の人に言われても、引き留められませんでした」
東京五輪まであと2年。それまでにパワハラ問題を反省して、選手の人権が守られる組織に日本レスリング協会は変われるのか。