ライフ

髪を洗わない高齢者が洗うようになったまさかのテクニック

“洗う順番”表示で髪の洗い忘れがなくなった認知症母

 83才の母の介護を続けるN記者(54才・女性)。近頃は母の髪の汚れが気になっているという。N記者が、介護における「洗う順番」についてリポートする。

 * * *
 母は何日も髪を洗わないことがあり、時ににおう。自立した生活と人との交流を楽しんでほしいから、何とかしたい。介護スタッフに相談すると、お風呂で洗う順番を書いて浴室に貼ると言う。そんなことで?と、笑いそうになったのだが…。

◆「臭いよ、ママ」と意地悪しても効果なし

 実は1年近く前から、母の髪の汚れが気になっている。サ高住で独居する母を訪ねるのは通院を含めて週1回くらい。以前は、汚れている時とそうでない時もあったが、髪がペットリしてにおうほど汚れている頻度が増えてきた。そしてそんな時は、会うなり、「ねぇママ、髪臭いよ。洗っていないでしょ?」と、思わず意地悪を言ってしまう。

 認知症の人にプライドを傷つけるようなことを言ってはいけないのは重々承知しているのだが、サ高住で暮らし始めてからの母はとても落ち着き、服装や化粧にも前向き。むしろ若い頃より明るくおしゃべりになり、娘の私が認知症を忘れるくらい。だから、つい本音が出てしまう。だいたい髪が臭いなんて、家族以外に誰も言えないではないか!

 それに母は洗えないのではない。一緒に温泉に行けば、黙っていても自分で洗う。そう、洗髪を忘れるだけなのだ。

「明日お出かけだから、今夜ちゃんと頭洗ってね。会う人に悪いじゃない」と、何度も電話してしつこく言うと、「失礼ね! 毎日洗っているわよ!」とキレる。でもそれが功を奏して、きれいな髪で会えることもある。洗髪が必要だと、ちょっと刺激的に伝えれば、まだ大丈夫…と思っていた。

◆介護スタッフの技アリアイディアに脱帽!

 ところが最近、ペットリ感が半端なくなってきた。私の嫌みではもう間に合わないのだ。髪が汚れているからといって、命にかかわるわけではないし、本人もとくに不快に感じていないようだ。

 でも、身近な人には多少なりとも不快だろう。やはり何か手を打とう。思いあぐねた末、ケアマネジャーに相談した。

「ヘルパーさんに助けていただくとしたら、洗髪を手伝ってもらうとか? でも母は自分で洗えるんですよね。何をやってもらえばいいのかしら…」と、私は相談しながら最大の問題点に気づいた。まだ自分でできる洗髪を人に頼んだら、自立のために頑張る母の努力に逆行してしまう。しかも、入浴は母の大切な楽しみの1つ。そこに他者が立ち入るのは、母にとっては大きなストレスかもしれない。

「では、こうしてみましょう!」と、私の迷いを遮るように、元気のいい声が響いた。

「シャンプーボトルに“シャンプー”と表示しましょう」

 え…!? 市販のシャンプーには初めから“シャンプー”と書いてあるではないか。

「そして体を洗う場所の目の前に、髪を洗う順番を書いて貼っておくのです」

 思いもよらぬ提案に苛立ちを覚えた。「髪を濡らし、シャンプーをつけて洗う」と書いて貼る? バカにしてるの?

「Mさん(母)は新聞や本を読まれますよね。そんな認知症のかたには効果的です。とにかくやってみましょう!」

 さっそく母の浴室には“シャンプー”のシールを貼ったシャンプーボトルと、パウチ加工した“洗う順番”が用意された。そして驚くことにその翌日、母は見事サラサラヘアで私を迎えてくれた。さすがプロ。技アリ!

※女性セブン2018年6月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
入場するとすぐに大屋根リングが(時事通信フォト)
興味がない自分が「万博に行ってきた!」という話にどう反応するか
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン