厚生労働省の平成28年度調査によると、全国の母子家庭数は約123万世帯あるのに対し、父子家庭は約18万世帯と圧倒的に少ない。父子家庭を取り巻く現状について、自身も2児のシングルファーザーで、全国父子家庭支援ネットワーク顧問の片山知行さん(47才)が語る。
「男性は、正規雇用の会社員であることが多いため、母子家庭と比べると収入が高くて恵まれていると思う人もいるかもしれません。しかし実際には、仕事と育児の両立が難しく、仕事を制限したり、正規雇用から非正規雇用の仕事へと転職する人は多く、収入が激減。住宅ローンなど負債を背負うことも多く、経済的に困窮してしまうんです。
それまでやったことのない料理や家事も、父親だけでなく子供にもストレスを与えることもある。また、現在は改善されてきましたが、父子家庭に対する国の支援は、母子家庭に比べて格段に少なかったのです」
片山さんが離婚し、会社勤めをしながらシングルファーザーとなったのは2004年のこと。以来これまで、小学3年生と保育園児だった息子と娘を男手ひとつで育てあげた。
片山さんは、育児に追われるさなかの2009年、国の父子家庭への支援不足を何とかしたいと、「全国父子家庭支援連絡会」を設立。当時、対象から外れていた父子家庭が、児童扶養手当の対象となるよう法改正に奔走した。
「自宅のある新潟から東京まで何度も足を運び、各政党のキーマンや大臣、官僚などさまざまなかたに会い、根回しや交渉に日夜飛び回りました」(片山さん)
その甲斐あって民主党政権時の2010年、児童扶養手当法が改正され、父子家庭にも手当てが給付されることになった。当時、メールや電話など反響が殺到したという。
「いちばん印象的だったのは、中学3年の息子を持つ病弱な50代のお父さんからの電話。親子は、小さなアパートで2人暮らし。収入が少ないため、息子さんは定時制高校に進学して働くつもりでした。でもそんな時、児童扶養手当が給付されるニュースをお父さんが見て、すぐに息子さんに『手当てが出るから全日制に行けるぞ』と話したそうなんです。
息子さんは、『そう』とだけ答えて、自室に戻っていったそうですが、そっと部屋を覗くと、肩を震わせ、声を殺して泣いていたそうです。電話越しに、お父さんが涙声で、“息子の人生を変えてくれてありがとう”と言ってくれた時は、苦労して法改正を勝ち取ってよかったと心から思えました」(片山さん)
◆職場の理解得られない現状も
片山さんらの活動を契機に、それまで父子家庭には適用されていなかった遺族年金や就労支援、福祉資金貸付金などの公的支援は徐々に拡充。
2009年当時はほとんど報道されなかった父子家庭が抱える問題も、少しずつ世間に知られていった。
それでも、今でもシングルファーザーから寄せられる相談は、お金や仕事に関することが最も多いという。片山さんが話す。