傘用ビニール袋の代替品として考案された『レインPad』は、不織布素材で、乾かして繰り返し使用できるマナーグッズ。工賃は障害者就労支援施設に還元される仕組みに。「ムダはあかん!」と語るなにわの主婦の開発物語をお送りする。
昨今、レジ袋削減が謳われているが、雨の日にオフィスビルやショッピングビルの出入り口に設置されたビニール製傘袋を削減しようとする動きはあまり見られない。この傘袋がゴミ箱から溢れ出しているのを目にするたび、代わりになるものを作りたいと、大阪府の主婦・山田由嘉子さんは考えていた。
まず思いついたのは、髪の毛を結ぶシュシュのようなものを濡れた傘に通すというアイディアだった。マイクロファイバー素材の不織布を濡れた傘の先端に取り付け、それをたたんだ傘に通すことで水滴を拭き取るものだ。試作してみたところ、周囲の評判は上々。『レインシュシュ』と名づけられ、すぐさま商品化する運びとなった。
東急ハンズ三宮店をはじめ、全国の量販店での販売が決まった。ところが、思ったほどは売れ行きが伸びない。その理由を探ろうと、モニターアンケートを実施してみると、商品そのものの見た目や実用性は悪くないものの、1個400円という価格がネックになっていることがわかった。山田さんは、低価格化を追求した新たな製品を生み出すことを決めた。
だが、すぐさま製法の壁にぶち当たってしまった。実は前身の『レインシュシュ』の大量発注を受けた際、いつもお願いしていた業者だけでは製造が追いつかず、障害者就労支援事業所の力を借りたことがあった。商品を受け取りに行った時のこと、製造現場で黙々と作る作業者の姿を目の当たりにして、山田さんは心を打たれた。新商品の製造は、障害者就労支援事業所に発注しようと心に決めていた。
それまで、『レインシュシュ』は主にミシンを使える人材に発注していたが、それだと人材が限られて工賃が高くつき、販売価格を抑えられない。もっと作業工程を簡略化する必要があった。不織布同士を接着するのに、ボンドや針なしホチキスなどを試してみたが、どれもうまくいかない。試行錯誤の日々だった。
そんなある日のこと、山田さんは近所のスーパーで総菜のパックを簡単に接着している光景を目にした。それは、パック本体とふたを重ねた状態で、重なり部分にある装置をあてるだけで接着する、とても簡単なものだった。「これならいける」──。
これは超音波ホチキスという業務用機器だった。山田さんはすぐさま超音波ホチキスを導入した。大成功だった。改良された新商品は『レインPad』と名づけられ、濡れた傘の先につけると、したたり落ちる水滴をキャッチできるほか、前作の『レインシュシュ』のように、濡れた傘全体にスライドさせることで、表面の雨粒を拭き取ることもできる。
私たち一人ひとりがこの『レインPad』をポケットにしのばせるのが当たり前のマナーになる日は、そう遠くないかもしれない。
※女性セブン2018年7月5日号