【著者に訊け】山極寿一氏/『ゴリラからの警告 「人間社会、ここがおかしい」』/毎日新聞出版 1400円+税
第26代京都大学総長は霊長類学者であり、〈ゴリラの国〉への数少ない〈留学〉経験者である。ジャングルに留学中は、〈ゴリラに叱られながら、彼らの国のマナーを学んだ〉。初めのうちは警戒され、襲われてケガをしたこともあるが次第に受け入れられるように。〈一頭のゴリラになって〉生きてみると、ゴリラの中に〈サルではなく、ヒトを見た〉。〈少し道を違えればゴリラのようになっていたかもしれないヒトの過去が見えるような気がしたのだ〉。
常識は本当に常識かと疑う視点は、この時の経験から生まれている。〈ゴリラの目で見た人間社会の不思議をまず見つけだし、それが今どのような働きをしているかを検討してみることにした〉。そうして書かれた本は、「人間とは何か」というマジメで本質的な問いを投げかける。
毎日新聞の連載コラム「時代の風」を大幅に加筆して一冊にまとめた。
「タイトルが『時代』と『風』という依頼でしょ。ぼくならどう表現するかと考えたとき、ゴリラを研究してきたので、やっぱりゴリラの目でみたらどう見えるかということになったんです。いまの時代ってものすごく急激に、大きく動いていて、そこに、人間がこれまで感じたことがない風を当ててみようと思ってね」
〈ゴリラと人間の間を行きつもどりつしながら〉というユニークな視点は、たしかに誰もが持てるようなものではない。たとえば、〈ゴリラは食べるとき分散するのに、人間は集まっていっしょに食べようとする〉。さらに、〈けんかの種となるような食物を分け合い、仲よく向かい合って食べるなんて、サルから見たらとんでもない行為〉なのだそう。