1957年に放送開始されたNHK Eテレ『きょうの料理』。テキスト版は1958年5月に創刊で、今年で60周年となる。そこで、『きょうの料理』テキスト編集長の草場道子さんに、同番組と同テキストが果たす役割について話を聞いた。
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『きょうの料理』のテキストは、テレビ放送の2~3か月前に出来上がります。講師のかた、テレビ制作スタッフ、編集部で打ち合わせをして、テキストの撮影を先に行います。テキストでは、テレビ放送で伝えきれないことをどう伝えるかということや、実用性があって手軽にできるものを中心とした特集や連載を組むように心掛けています。
本誌で紹介するレシピはすべて、スタッフが試作。私も原稿を読んでいて、「この量だと水分が多すぎない?」「このタイミングで入れて大丈夫?」など、気になった時は、編集部の裏のスーパーに材料を買いに行き、その日のうちに自分で作ってみることも。わからないことがあると、直接編集部に電話をくださるかたも多いので、必ずどんな人でも失敗なく、わかりやすく作れるレシピにしなければなりません。今はネットでたくさんのレシピを検索できるようになりましたが、テキストは紙で残るので、正確さは絶対です。
SNSの発達で、誰でも自分のレシピを世の中に広く公開できるようになりましたが、そんな時代だからこそ、匿名ではなく、しっかりメッセージをもって届けたい。それがNHKとしての役目だという矜持があります。
これまで、たくさんの講師のかたがたとご一緒してきて、忘れられない思い出もたくさんあります。私がまだ駆け出しの頃、大原照子さんの撮影で「好きな器をあなたが選びなさい」と言われた時は、骨董品ばかりの大原さんのお皿を震えながら選びました。
鈴木登紀子さんのおせち料理の特集では、深夜2時までかかって撮影しましたが、いちばん元気だったのは当時74才のばぁば(笑い)(ばぁば=現在93才の鈴木登紀子さん)。サンダルでタクシーを止めに表に走り出て、「また明日ね~!!」と元気に送り出してくれたのを今でも覚えています。
歴史を作ってくださった講師のかたたちと、実際に料理を作ってくださった読者のかたがいての60年。
今思うのは、『きょうの料理』は、“あなたの料理”だということです。レシピの通りに作れば、誰でもおいしくできる料理をそろえているという自信はありますので、初心者のかたは、まずはその通りに作っていただきたい。でも、作るうちに手順や味つけは自由にアレンジしてもらい、いつかレシピを見ないでも作れる自分の料理になってほしい。そうして子へ、孫へ、ずっと後世まで受け継がれていく味になってほしい。60年先でもおいしいレシピを、これからも届けていきたいと思っています。
※女性セブン2018年7月5日号