臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人やトピックスをピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、サッカーW杯の日本対コロンビア戦に注目。
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平均視聴率48.7%、歴史的勝利の瞬間は、最高視聴率が55.4%という驚異の数字を叩きだしたサッカーワールドカップロシア大会、日本対コロンビア戦。試合が始まったその時間、近所にあるスポーツジムではトレーナー以外、誰もいなかったという。
蓋を開けてみれば、大方の予想を裏切り2─1で歴史的勝利を飾った日本代表チーム。ゴールした大迫勇也選手の代名詞「半端ないって」は、瞬く間に世界中に拡散。強豪コロンビア相手では、そしてできたてホヤホヤの西野ジャパンでは勝てないと予想していた多くのサッカー解説者やコメンテーターたちは、翌日から続々とにこやかな顔で嬉しそうに謝罪し、「半端ない」を口にした。その勝利を「サランスクの奇跡」と呼んだメディアもあるが、奇跡はそう願う強い気持ちと準備がなければ起こらない。
スタジアムの中はコロンビアサポーターの黄色で埋め尽くされ、日本は完全アウェー状態。日本でも多くの人がコロンビアが勝利すると思っていただけに、日本の選手たちは、コロンビアの選手たちと自分たちを比較して、向けられた期待の低さを感じ取っていたことだろう。逆にコロンビアの選手たちは、期待や熱意を感じ、自分たちの完全優位を実感していたはずだ。このように、自分の立ち位置や状況を見るために、相手や周囲と比較することを心理学的には「社会的比較」という。
「社会的比較」はこんな所にも見えていた。入場してきた選手がスタジアムに並ぶと、コロンビアサポーターから歓声が上がった。コロンビア国歌が斉唱されると、彼らの歌声が大きなうねりとなっていく。ゴールキーパーのダビド・オスピナ選手は、歌いながら目をつぶり、少し苦い表情を見せていた。だがキャプテンのラダメル・ファルカオ選手は柔らかい余裕の表情だ。スタメン入りしなかったハメス・ロドリゲス選手は、ベンチですでに勝利したような微笑みを浮かべ歌っていた。闘う前から勝ったも同然、そんなおごりさえ感じさせる微笑みだった。
その様子が、日本の選手たちに見えていたとは思わない。だが、雰囲気は感じていただろう。「自分たちが負けると思われている」、そう感じれば、人は競争心をさらに強くして、いつも以上に力を出そうとするものだ。「社会的比較」は、人の意識や行動に強い影響を与えるという。