これも格差が生んだ事件だといえようか。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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ある日、駐車しておいた車に戻ったら傷が──。マイカー所有者にとって考えたくない悪夢の瞬間であるが、それがわざとつけられていたとすれば怒りは収まらない。だが、寧波に住むサラリーマンの王さんが見舞われた災難では、怒りを覚える前に、頭の中に疑問符が充満した。
というのも傷をつけられた車には、ご丁寧に犯人からと思われるメモが貼り付けられていて、そこに「5万元(約85万円)を貸してほしい」と書かれていたからだ。メモの写真を添えて報じたのは『青年時報』(5月23日)である。
車に貼り付けられていたメモは、横書きのレポート用紙で、A4サイズ。特徴的であったのは「こんにちは、おじさん」という書き出しが丁寧であったことだ。
メモの中身には、犯人の父親が病気であり、治療費が必要だということ。犯人は、こんな車(リンカーンMKC)に乗れるほどの金持ちなら借りられると考えたようだ。だが、それならば車に傷をつけず、メモだけを残せばよいのではないかと考えてしまうのだが、それはそうでもないらしい。
メモには、貸してくれないのであれば、今後、もっと大きな傷をつける、と予告されているからだ。
劉と名乗るこの人物、ご丁寧にウィチャットのアドレスを残していたという。記事によれば、被害者の王さんは腹を抱えて笑ったというから愛車の傷はそれほどこたえなかったのだろう。そして結末は読者の想像の通り。間もなく犯人は御用となった。
犯人の劉は22歳。父親が入院しているというのはもちろんウソで、本人は近くの電機メーカーの労働者で、毎月4000元(約6万8000円)のサラリーを得ていたという。
犯行の動機は、遊ぶ金が不足し、ネット金融で約5万元の借金をつくっていたことだった。劉が傷つけた車は王さんのリンカーンの他にも二台あり、いずれも高級車。傷の修理代のために劉の借金はさらに膨らんだという。