『きょうの料理』(NHK Eテレ)は、日本の食文化が劇的に移り変わった激動の60年を見守ってきた。この番組とともに、第一線で料理の変遷を見つめ続けてきた料理人は、この時代に何を思うのか。『赤坂四川飯店』のオーナーシェフ陳建一さん(62才)が、思い出を振り返る。
* * *
ぼくが初めて作った料理は、中華でも和食でもない。
マカロニグラタンです。
小学生の時に、不二家のレストランで食べたマカロニグラタンがおいしくてね。テレビでたまたま『きょうの料理』でマカロニグラタンをやっていて、急いで母親にテキストを買ってもらい、見よう見まねで作りました。
親父は家族にもよく料理を作ってくれたし、厨房はぼくの遊び場だったから、料理は小さい頃から身近なものだった。
親父が『きょうの料理』に出ているのも覚えているけれど、料理する姿なんていつも見てたから特に珍しくもなんともなかったね(笑い)。
自分が出演する前から、親父のアシスタントとして現場に行ったり、撮影の手伝いをしたりしていたけど、『きょうの料理』はとにかく丁寧なの。親父は感覚の人だったから、「大さじ○○」「○○cc」というのが大の苦手。パッと調味料を入れちゃって、NHKの人に「今のは大さじどれくらいですか?」と聞かれても、答えられない。
だからぼくがあらかじめカップの調味料を量っておいて、親父が入れたらその残りを量って、じゃあ○○cc入れてるね、ってやってたの。ぼくもそういうところは親父に似てるからよくわかる。
親父はよく、新人の料理人に「あなた、彼女、作る」と言っていたんだけど、これは「彼女のために作るように愛情込めて作りなさい」ということ。どこの家庭にもある材料で、誰でも作れるような料理。それを丁寧に教えてくれるのが、『きょうの料理』だと思うんです。
【PROFILE】
陳建一(62才)●『赤坂四川飯店』オーナーシェフ。「中華の神様」と呼ばれる陳建民を父に持ち、幼少期から料理に親しむ。四川料理を広め、『料理の鉄人』(フジテレビ系)など、テレビや雑誌で幅広く活躍。
※女性セブン2018年7月5日号