日本に希望を持って来日したベトナム人男性は、9歳の愛娘がわいせつ行為を受けたうえに、命を奪われた。そして裁判では、被告の驚くべき“主張”に再び心をえぐられた。絶望の淵に立つ父親が、亡き娘と犯人への思いを綴った。(取材・文/水谷竹秀=ノンフィクションライター)
◆怒り、無力感、悔恨
「息子は今も姉のリンちゃんが亡くなったことを知りません。どうしてリンちゃんが毎日学校から戻って来ないのか。どうしてご飯をあげたのに残っているのか。どうして家にいないのか。4歳の息子にどう答えていいのか分からなかった」
黒いスーツ姿のレェ・アイン・ハオさん(35)は証言台で、両手を大きく上下に振り、声を震わせながら日本語で激しく訴えた。検察側の後部に設置された衝立の中からは、母親・グエンさん(31)のむせび泣く声が聞こえる。その対面に座る澁谷恭正(しぶややすまさ)被告(47)の目は虚ろで、ハオさんの訴えにも一切表情を崩さなかった。
6月15日、千葉地裁201号法廷では、ベトナム人女児、レェ・ティ・ニャット・リンちゃん(享年9)が殺害された事件の第9回公判が開かれていた。
リンちゃんは昨年3月24日朝、松戸市内の小学校への登校中に行方不明になり、2日後に約10km離れた我孫子市の排水路脇で全裸の遺体となって発見された。