海外に長期滞在している日本人は約135万2000人で、そのうち仕事や留学などで滞在している日本人は約87万人といわれる(2017年10月現在)。外務省が発表した海外での死亡統計では、年間400~600人の日本人が亡くなり、その約7割が病死だ。海外で病死というとマラリアやチフス、狂犬病などの感染症で命を落とすのでは、と思われがちだが、実はその原因の多くが脳梗塞・心筋梗塞だという。
日本旅行医学会専務理事で千駄ヶ谷インターナショナルクリニック(東京都渋谷区)の篠塚規院長に話を聞いた。
「海外旅行や留学、あるいは海外赴任される方のほとんどは、行き先エリアで指定されている予防接種をし、保険をかけていれば安全だと思っていますが、それは大間違いです。過去10年以上の統計をみても、海外で感染症が原因で亡くなった日本人は、ほぼゼロ。不幸にも感染した方はいらっしゃいますが、帰国して適切な治療を受けています。損害保険会社のデータによると海外での死因は脳梗塞・心筋梗塞が大半なのです」
現在、厚生労働省が指定する海外赴任にあたっての健康診断は胸部X線撮影、心電図、血液検査と尿検査で、胃のバリウムか内視鏡検査がオプションとなっている。しかし、これらの検査では脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクを見つけることは難しい。
旅行医学の見地から、注目されているのが「LOX-index」という血液検査だ。この検査は国立循環器病センターなどが中心となり、日本人約2500人を約11年間追跡調査した研究成果をベースに開発された。今後10年以内の脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクを予測できる最新指標だ。
脳梗塞・心筋梗塞発症の大きな原因の一つが動脈硬化である。血管内皮細胞のLOX-1という物質と変性(酸化された)LDL(悪玉コレステロール)の一部が結合すると、やがて動脈硬化となる。LDL値が高いだけでは動脈硬化とはならず、活性酸素と結合して変性LDLになると動脈硬化が進む。この検査は血中の変性LDLと結合するLOX-1を測定し、リスクが高い順から赤、オレンジ、黄、緑の4つで表示する。