【著者に訊け】伊藤まさこさん/『美術館へ行こう ときどきおやつ』/新潮社/1620円
【本の内容】
〈ポケットにお財布と電話だけポイと入れて、気軽に美術館に立ち寄れたらいいなぁと思っています。近所の公園に散歩に出かけたり、明日の朝ごはん用のパンを買いに行ったりする感覚で〉──北は北海道の「北のアルプ美術館」から南は鹿児島の「かごしま近代文学館『向田邦子の世界』展示室」まで、全24の小さな美術館を紹介する。伊藤さんの、美術館の魅力を伝えんとする熱意は写真に付けられた細かいキャプションにまで及ぶ。読めば行きたくなるところばかりだ。
小さい美術館の魅力を紹介するため、北海道から鹿児島まで足を延ばした。
「大きい美術館って、展示がたくさんあって、一気に見ようとすると疲れるんですよね。私は、忙しい毎日の中でちょっと気分転換がしたくて美術館に行くことが多いので、情報がたくさん入りすぎない規模の、こじんまりした美術館を紹介しています」
本に紹介されている24館はいずれも、伊藤さんのお気に入りばかりだ。たたずまいが街にしっくりなじんで、いかにも居心地がよさそう。それでいて個性がある。
伊藤さんが年に2度は行く、香川県丸亀市の猪熊弦一郎現代美術館も、小さくはないけれど収録されている。東京都内では岡本太郎記念館や、東京大学の学術文化財を展示する、インターメディアテク(IMT)などが紹介されている。
「岡本太郎記念館は雑誌に連載したときの第一回でした。岡本太郎さんの自由な生き方が大好きなんです。東京駅周辺で私はいつも、迷って呆然とするんですが(笑い)、IMTはすごくホッとする場所です。東大で使わなくなった棚や椅子を展示に再利用していて、映画の世界に足を踏み入れたような不思議な空間なんですよ」
美術館を紹介する丁寧な文章からは、その場所にいる時間を楽しんでいることが伝わってくる。美術鑑賞とセットで味わえる、おいしい「おやつ」が紹介されているのも楽しい。旅に出るといつも、まずご飯を食べるところを決め、その合間に散歩がてら美術館に立ち寄るという、伊藤さんのふだんの暮らしの延長にある企画だ。
「思い立ってふらっと出かけて、30分ほどで出てくることもありますし、娘が小さいときはバギーを押して行ったこともあります。今は、自分のペースで見たいのでひとりで行くことが多いかな。自分では絶対買えないすばらしいものを、美術館に行けば見ることができる。それってすごいことですよね。私はもともと綺麗なものが好きで、それがスタイリストという仕事を続けている理由の1つでもあるんですけど、展示を見て感じたことは仕事や自分の暮らしの参考にもなる。全部がつながっているんです」
◆取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2018年7月12日号