音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、落語家の出囃子など寄席囃子を演奏する恩田えりがプロデュースする若手会について解説する。
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高円寺の居酒屋「ノラや」は長年「ノラや寄席」を開催しているが、2009年にゴールデンウィーク特番として「五月猫(ごがつびょう)」という企画を始めた。寄席囃子の恩田えりプロデュースの若手会で、僕は初年度から毎年通っている。
その「五月猫」歴代出演者を迎えての「五月猫同窓会」(なかの芸能小劇場)が2015年から始まり、これも毎年恒例となった。今年は5月4日で出演は古今亭今輔、三遊亭萬橘、三遊亭天どん、笑福亭たま、そして「歌うスタンダップコメディ」寒空はだか。開口一番は三遊亭白鳥門下の前座、三遊亭ぐんまが高校レスリング部時代の実話をもとにした新作『グレコ奮闘記』を演じた。
この会の出演順は、えり司会のオープニングトークでのクジ引きで決まる。一番手は昨年度の花形演芸大賞受賞者、パワフルな上方落語で人気の笑福亭たま。持ち時間の半分を費やした「上方落語協会会長選挙の裏話」がナマナマしくて実に面白い。こういう話術の冴えもたまの魅力だ。続いて演じた『寿限無』も当然ありきたりな古典ではなく、長寿を願って親が付けた名前のとおり「よく食べ、よく育ち、長生きした」男の生涯をコンパクトに描く、たま独自の爆笑編。でありつつ、ちょっと感動的な余韻を残すのも素敵だ。
続く天どんは師匠の三遊亭圓丈作『肥辰一代記』。オワイ屋中興の祖と呼ばれた肥え汲み名人の十三代肥辰に憧れて入門した青年が修業に励んで十四代肥辰を襲名するというバカバカしい噺で、柳家喬太郎も好んで演じるが、どこか投げやりな口調で淡々と演じる天どんの『肥辰』には、迫力に満ちた喬太郎の口演とは異なるトボケた可笑しさがある。