6月9日に、新幹線の社内で発生した殺傷事件。殺人容疑で逮捕された小島一朗容疑者(22才)は、鉈とナイフで無差別に乗客を襲い、女性を守ろうとした会社員の梅田耕太郎さん(享年38)を殺害した。
こういった凶悪な事件を受け、殺人犯に対する刑事罰の厳罰化を求める声も多いが、一方で、悲嘆に暮れる人がいる。和歌山県精神保健福祉家族会連合会の副会長で、長男が精神障害を抱える大畠信雄さん(75才)だ。
「小島容疑者のやったことは決して許されることではありません。でも、彼が精神科病院に入院していた過去を持つという報道に接した時、複雑な心境になりました。そうした施設に通う当事者は、心の底では劣等感を持ちます。どんな障害者にもプライドはあり、誰しもスーツやネクタイをして会社に勤めたいとか、好きな人と結婚して子供を育てたいとか、普通の夢を持っていて、それを糧に生きていくものです。
親と決別し、誰にも理解されない中で、その夢を失い、鬱屈が社会に向いてしまったのだとしたら…。私たち周囲の人間に何かできることがあったのではないか。そう思わずにはいられないのです」
大畠さんの長男は、かつて他者への攻撃性が極めて強く、自身も幾度となく暴力を振るわれてきた。殴られ、蹴られ、肋骨を折られたこともある。
「それでも“知られたくない”という恥ずかしさが勝り、周囲の誰にも相談できず、息子の障害を隠し続けました。同じように、『外に出すと何が起きるかわからない』、と自宅に閉じ込める家族もたくさんいます。でも、それは八方塞がりになるだけで、何も解決しないんです。社会が手を差し伸べなければ、水面に浮上することは絶対にできない。
みなさん、道端で血を流してけがをしている人を見つけたら、助けますよね。精神的な病を抱えた人は、心に血を流しているのです。ゆえに誰にも気づかれない。世界からぽつんと孤立し、傷つきながらもがいている。
犯罪をする可能性が高いという理由で特定の人々を監視し、隔離するような社会が到来したら、精神を病む多くの人々が該当してしまうでしょう。それは本人や家族をますます追い詰め、最悪の事態へと向かわせるだけだと思うのです」(大畠さん)
小島容疑者の家族によれば、彼は常々「死にたい」「おれに生きる価値はない」と抑鬱的な発言を繰り返しており、時には「助けてください」という悲痛な叫びもあったという。
「人は誰しも、ひとりでは決して生きていけない。異質な者に相対した時、排除ではなく向き合う社会であってほしいと、切に願います」
そう語る大畠さんの言葉もまた、重い。
※女性セブン2018年7月12日号