6月9日に発生した新幹線殺傷事件では、公共の場での安全対策の不十分さが改めて浮き彫りになった。現在の新幹線の警備状況はどうなっているのか。JR東海に聞いた。
「犯人が焼身自殺を図った2015年の東海道新幹線火災事件以降、車内の防犯カメラ設置を開始しました。現在は9割の車両で設置が完了しています。そのほか、非常ブザーが押された際、車掌室モニターに防犯カメラ映像が映し出され、すぐに状況を把握できる仕組みも導入済みです。
乗務員の教育や、警察・消防との合同訓練も、事件前から実施していました。今後は警備強化に加え、スマホで乗組員全員がリアルタイムで現場を確認・共有できるシステムも導入予定です」(JR東海広報室)
テロ対策に詳しい公共政策調査会研究センター長の板橋功さんが話す。
「鉄道各社が駅構内の防犯カメラを増設したのは、1995年の地下鉄サリン事件から。その後、2001年に起きた米同時多発テロや、2004年のマドリード列車爆破テロなどの重大事件を契機に、サミットなどの大きなイベントの際には、コインロッカーを閉鎖したり、ゴミ箱を撤去するなど対策を行ってきました。
実際、9.11以降は航空各社も警備に力を入れ、保安検査やコックピットのドアを強固にするなどし、その結果、ハイジャック事件は減少しています」
しかし、今回のようなケースでは、カメラは役に立たない。関西大学社会安全学部教授の安部誠治さんが話す。
「自暴自棄になって犯行を起こそうとしている人への抑止力としては、防犯カメラは弱い。また、カメラではかばんの中の凶器も見つけられません。手荷物検査を実施すべきですが、現時点では莫大なコストや混雑が予想されること、利用者の理解も得られないことから難しい。
対策としては、高感度センサーを改札に取り付け、通過時に凶器や爆発物などを検知するシステムを開発するのがよいと思います。時間はかかるかもしれませんが、日本には、それを実現するための技術力はあります」
海外に目を向けると、ロンドンとパリを結ぶ国際列車「ユーロスター」では、既に手荷物検査や金属探知機のチェックを実施している。
また、ニューヨークのグランド・セントラル駅やシンガポールの地下鉄でも、通勤時間などに手荷物をランダムで検査し、犯罪抑止につなげる動きが広がっているという。
2020年の東京五輪までには、天皇陛下の退位・即位やラグビーワールドカップなど国際的行事が目白押し。一刻も早い安全対策強化が必要だ。
※女性セブン2018年7月12日号