ビジネス

夫の死でシングルマザーになった女性による抱っこ紐開発秘話

抱っこ紐、バッグ、おむつ替えシート、簡易敷布団にもなる『gyuttone!』

 抱っこ紐、バッグ、おむつ替えシート、簡易敷布団として使える『gyuttone!』は、夫の不慮の死でシングルマザーになった主婦・大門みづきさんが人生の再起をかけて考案した抱っこ紐。大門さんの熱意に、人と人とが繋がる感動の開発物語――!

 同じ苦しみを抱えている人に、エールを送るような商品を作りたい――そんな思いから誕生したのが、抱っこ紐とバッグが一体化した多機能抱っこかばん『gyuttone!』。

 開発した大門みづきさん(41 才)は、4年前に交通事故で最愛の夫を亡くしていた。当時10か月の息子を抱えて、シングルマザーに。夫の死のショックからなかなか立ち直れず、家に引きこもる日が続いた。それでも日に日に成長する息子を見ているうちに、「このままではいけない」と、少しずつ外出するようになった。

 2015年の秋、2才になる息子と動物園に出かけた時のこと。息子が途中で眠ってしまい、ベビーカーも抱っこ紐も持って出なかった大門さんは、汗だくになりながら息子を抱えた。帰り道、目に飛び込んだのは、わが子と同じ年頃の子を抱っこする父親と、それを見守る母親の姿。夫との暮らしを思い出し、涙があふれそうになった。しかしそのとき、不意に同じシングルマザーの友人のことを思い出した。「つらい思いをしているのは自分だけじゃない」

――その夜から、抱っこ紐の開発が始まった。

 既製の抱っこ紐には、軽量で持ち運べるものは多かったが、大門さん自身が満足して使えるものがなかった。コストパフォーマンスの高いものが好きで、1つの用途にしか使えないと、その商品に魅力を感じられない。どうせなら一石二鳥以上のものを創りたいと思った。“バッグを抱っこ紐にできないか”と考えた。

 図書館でバッグの作り方の本を数十冊借りてきて、試作を重ねる日々。国が主催する「よろず支援拠点」へ足を運び、専門家と試行錯誤しながらアイディアを形にするのに、約1年半を費やしていた。しかしその間も、夫の死という、心をえぐられる出来事を思い出しては、沈み込む日も少なくなかった。

 転機となったのは、起業塾で知り合った仲間に、一部始終を打ち明けたことだった。なぜこの商品を生み出そうと思ったのか、涙を流さずに伝えられるようになるまで時間がかかったが、よろず支援のアドバイザーから、生産工場を紹介してもらえることになった。資金はクラウドファンディングで集め、約1か月で達成率は220%を突破。ついに『gyuttone!』は完成した。

「育児グッズは子供が成長すると手放すことが多いものですが、この商品のように、抱っこ紐以外の用途があることで、子育ての思い出の品を使い続けていけるんです」(大門さん)

 今では、子育てで大門さんと同様の苦労を経験した先輩ママからの出産祝いとしても喜ばれている。

※女性セブン2018年7月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

東日本大震災発生時、ブルーインパルスは松島基地を離れていた(時事通信フォト)
《津波警報で避難は?》3.11で難を逃れた「ブルーインパルス」現在の居場所は…本日の飛行訓練はキャンセル
NEWSポストセブン
別府港が津波に見舞われる中、尾畠さんは待機中だ
「要請あれば、すぐ行く」別府湾で清掃活動を続ける“スーパーボランティア”尾畠春夫さん(85)に直撃 《日本列島に津波警報が発令》
NEWSポストセブン
宮城県気仙沼市では注意報が警報に変わり、津波予想も1メートルから3メートルに
「街中にサイレンが鳴り響き…」宮城・気仙沼市に旅行中の男性が語る“緊迫の朝” 「一時はネットもつながらず焦った」《日本全国で津波警報》
NEWSポストセブン
津波警報が発令され、ハワイでは大渋滞が発生(AFP=時事)
ハワイに“破壊的な津波のおそれ” スーパーからは水も食料品も消え…「クラクションが鳴り止まない。カオスです」旅行者が明かす現地の混乱ぶり《カムチャツカ半島地震の影響》
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月16日、撮影/横田紋子)
《モンゴルご訪問で魅了》皇后雅子さま、「民族衣装風のジャケット」や「”桜色”のセットアップ」など装いに見る“細やかなお気遣い”
夜の街での男女トラブルは社会問題でもある(写真はイメージ/Getty)
「整形費用返済のために…」現役アイドルがメンズエステ店で働くことになったきっかけ、“ストーカー化した”客から逃れるために契約した「格安スマホ」
NEWSポストセブン
牛田茉友氏はNHKの元アナウンサーだったこともあり、街頭演説を追っかける熱烈なファンもいた(写真撮影:小川裕夫)
参院選に見るタレント候補の選挙戦の変化 ラサール石井氏は亀有駅近くで街頭演説を行うも『こち亀』の話題を封印したワケ
NEWSポストセブン
大谷家の別荘が問題に直面している(写真/AFLO)
大谷翔平も購入したハワイ豪華リゾートビジネスが問題に直面 14区画中8区画が売れ残り、建設予定地はまるで荒野のような状態 トランプ大統領の影響も
女性セブン
技能実習生のダム・ズイ・カン容疑者と亡くなった椋本舞子さん(共同通信/景徳鎮陶瓷大学ホームページより)
《佐賀・強盗殺人》ベトナム人の男が「オカネ出せ。財布ミセロ」自宅に押し入りナイフで切りつけ…日本語講師・椋本舞子さんを襲った“強い殺意” 生前は「英語も中国語も堪能」「海外の友達がいっぱい」
NEWSポストセブン
大日向開拓地のキャベツ畑を訪問された上皇ご夫妻(2024年8月、長野県軽井沢町)
美智子さま、葛藤の戦後80年の夏 上皇さまの体調不安で軽井沢でのご静養は微妙な状況に 大戦の記憶を刻んだ土地への祈りの旅も叶わぬ可能性も
女性セブン
休場が続く横綱・豊昇龍
「3場所で金星8個配給…」それでも横綱・豊昇龍に相撲協会が引退勧告できない複雑な事情 やくみつる氏は「“大豊時代”は、ちょっとイメージしづらい」
週刊ポスト
NYの高層ビルで銃撃事件が発生した(右・時事通信フォト)
《5人死亡のNYビル乱射》小室圭さん勤務先からわずか0.6マイル…タムラ容疑者が大型ライフルを手にビルに侵入「日系駐在員も多く勤務するエリア」
NEWSポストセブン