2013年12月末、夫(当時75)が自宅で死亡、体内から青酸化合物が検出されたことをきっかけに、過去の夫や交際相手に青酸化合物を飲ませて殺害し多額の遺産や保険金を手にしていたとされる筧千佐子被告(71)。昨年、京都地裁で開かれた公判を通して疑われた、彼女の認知症疑惑について、『全告白 後妻業の女「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)の著者であるノンフィクションライターの小野一光氏が検証した。なお、筧被告は同裁判で死刑判決を言い渡されている。
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気になったのが、彼女の認知症だ。
彼女が軽度の認知症であることが裁判の争点の一つとして取り上げられ、その責任能力と訴訟能力が問われている。実際に法廷で千佐子は「憶えていません」という言葉を繰り返し、自身の記憶力の減退を訴える姿が頻繁に見受けられた。
だが、私が直接対峙した限りでいえば、千佐子の言葉ははっきりしており、記憶についても、法廷で訴えたほどに不明瞭なものではなかった。
千佐子は私に対して、起訴されていない結婚・交際相手の数人について、殺害を認める言葉を口にした。だが、メモを取る私の息を呑む気配を察したのか、途中で話の内容をずらし始め、こちらが質問していないのに自分の人生について語り出すと「私、自分がどんな仕事したっていう記憶がないんよ」と、記憶の減退を訴えるのだった。