【書評】『ちょっと一杯のはずだったのに』/志駕晃・著/宝島社文庫/630円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
著者は、ラジオ局のニッポン放送に勤めるサラリーマンだ。昨年、デビュー作の『スマホを落としただけなのに』がヒットして、今年11月に映画化されることになった。
新人作家として、これ以上ない成功を収めたのだが、新人作家にとって一番重要なのは、二作目だ。そこで失敗すると、一発屋で終わってしまうからだ。ところが、二作目の本書は、デビュー作を超えるスリルとスピード感、そして最後に大どんでん返しが待ち構えていて、前作を上回る出来映えだ。
実は、私は何年か前に著者と仕事をしたことがあるので、よく分かるのだが、著者は、アキバ系のオタクだ。だから、この作品の舞台も秋葉原になっている。本業があって、小説を書くのに、いちいち取材をしている時間はないから、自分の知識で書ける舞台を選んだのだろう。
人物設定も、同じ事情だ。主人公は、ラジオ局に勤務するディレクター、まさに著者がやってきた仕事だから、描写が的確で、リアリティがある。これは、他の小説家では出来ないことだ。