巷に溢れる「やってはいけない」「やったほうがいい」という健康情報には、実践する側が知りたい「肝心な情報」が抜けている。“良いか、悪いか”は詳しく記しているのに、「誰に合うのか」は軽く見られているのだ。
特に困るのが「シニア向き」「中高年向き」という“括り”である。人生100年時代において、60歳と70歳、さらには80歳、90歳の健康対策が同じでいいはずがない。怖ろしいことに、実践する年齢が適していなければ、「害」になる健康対策もある。それは、薬についても言える。
国内外の研究論文や各種ガイドライン、専門家である医師の解説などをもとに、様々な分野の薬について「服用を慎重に判断すべき年齢」を調べると、リスクを慎重に考慮すべき年齢は、薬の種類によって違ってくることがわかる。
『誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方──ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ──』の著者で、北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師がいう。
「たとえば血圧を下げる降圧剤のなかには、『75歳以上』の患者が服用すると、急激に血圧が下がって、ふらつき・転倒や記憶障害などのリスクが大きくなるものがあるとわかっています。血栓の生成を防ぐはたらきをもち、〈一生涯の使用〉が原則とされてきた抗凝固剤にも、『85歳以上』が服用した場合の出血リスク増大を指摘する調査結果があります。
薬については、“高齢者は注意すべき”“65歳以降はやめたほうがいい”などという大まかな議論をするのではなく、エビデンスに基づいた年齢ごとに変わる薬のリスクを知り、適切な服用につなげていくことが望ましいのです」
国や関連学会も、ここにきて急ピッチで「年齢に応じた服用」についての指針作りを進めている。