親が認知症や要介護になってまっ先に制限するのは“買い物”かもしれない。だが、高齢者も含めた現代人にとって買い物は、もっと奥深い意味があるようだ。生活者の感覚を取り戻すべく、買い物をリハビリとして取り入れたデイサービスが注目されている。株式会社エムダブルエス代表・北嶋史誉さんに聞いた。
今年6月、群馬県前橋市にあるスーパー、「フレッセイ大利根店」の店内で“買い物リハビリ”が始まった。これは同店に併設された通所介護事業所、予防デイトレセンター大利根で提供されるデイサービス。要支援の人が対象だ。
「デイサービスの名札を下げ、万歩計をつける以外は一般の買い物客と同じ。必要があればスタッフが付き添いますが、高い棚に手を伸ばすのも、腰をかがめて下段の品物を取るのもリハビリの一環。
広い店内で、欲しいものや家族から頼まれたものを探す。冷蔵庫の在庫を思い出しながら、買い物メモを見ながら探すと、自然と歩けるのです。脳も体もしっかり使う、有酸素運動です」(北嶋さん)
同行させてもらった70代の女性は、普段の買い物は同居する娘さんがやっているが、「何せ5人家族だからね」と、うれしそうに繰り返した。
食べ盛りのお孫さんのためにバームクーヘンをカゴへ。自分の好物のソースせんべいがなかなか見つからず、通路を行ったり来たりしていた。
支払いは自分の財布から(自己負担)。レジで小銭を数えて出すのも脳トレだ。
「店側とはしっかりと打ち合わせができていて、店員さんがさり気なくサポートしてくれたり、レジでまごついても『ゆっくりでいいですよ』と声をかけてくれたりします。
今後、慣れてきたら、30~40分で2000~4000歩(約1~2km)の歩行を目指します」(北嶋さん)
また、少し介護度の進んだ要介護1以上の人向けには、2012年から、日高デイトレセンター(群馬県高崎市)など5つのデイサービスを移動販売車が巡回し、買い物リハビリを行っている。
「移動販売車は杖や車いすの人でも充分に買い物ができる大きさで、生鮮食品ほか、その日に店長が選んだ品が棚の上から下までぎっしり。体を使って商品を探して取り、旬の青果で季節を感じ、アテンドする運動指導士からは“不足しがちな動物性たんぱく質は、たとえばこんな食品から摂れますよ”などとアドバイスがもらえることも。
買い物をすることで、“しっかり食べる”ということにもつながるようです。でもみなさん、品物を選ぶときは本当にいいお顔をされるのです。買い物リハビリに参加したくて、当社のデイサービスを選んで来てくださるかたも多いようですよ」