シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が開かれてから、はや1か月以上が経った。だが、金正恩朝鮮労働党委員長がトランプ米大統領の求めに応じたとされる「非核化」については、一向にその道筋が見えてこない。やはり北朝鮮は核廃棄の意志など毛頭なかったのではないか。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が非核化実現の可能性を探る。
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ポンペオ米国務長官は7月7日、平壌で金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長との実務者協議を終えた。ポンペオ氏は非核化の工程表を含めて「極めて生産的。多くの進展があった」「ほぼ全ての分野で進展があった」と金副委員長との協議を評価した。また、北朝鮮側とは非核化の検証などに関する複数の作業部会を設置することで合意したということだ。
しかし、北朝鮮の反応は真逆だった。北朝鮮外務省報道官は声明を出し、「一方的でギャングのような非核化要求だった」「非核化への我々の意思が、揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」と批判した。
北朝鮮がこうした反応を示すのは、ポンペオ氏が7月8日の共同会見で「北朝鮮が求める安全の保証は行うし、関係を改善する。しかし、制裁の解除は別物。非核化が完全に達成されるまで続ける」と述べたように、強力な制裁を継続すると表明していることへの反発なのかもしれない。
金正恩委員長は今年になって3回訪中しているが、このような習近平主席と金正恩委員長の緊密ぶりと、今回の北朝鮮外務省声明は無関係ではないだろう。
北朝鮮側の態度は外交的なゆさぶりなのかもしれないが、経済制裁が段階的に緩和され、経済支援を受け取ることが出来ないのなら、米国と非核化のための交渉を行う意味はないと判断しているのかもしれない。
北朝鮮は、経済と軍を再建できるほどの莫大な経済支援があれば別として、非核化を行う気はないのだから、何かきっかけがあれば、これまでと同様に米国との交渉を打ち切るだろう。北朝鮮の立場から見れば、二枚舌のトランプ政権は信頼できる交渉相手とはいえない。