スティーブ・ジョブズ(アップル創業者)の人物伝を読まなくても、日本にだってまるで今のシリコンバレーの起業家のような、規格外の人間がゴロゴロいた。そう思って起業家たちの生き方から学べることを『戦前のお金持ち』(小学館新書)という本にまとめたライフネット生命の創業者・出口治明氏が、歴史学者の奈良岡聰智・京都大学大学院教授を相手に、日本人のイメージや本質について考えた。
出口:「相場の神様」と呼ばれた山崎種二は、米相場で大儲けするんですが、「国民が食べるものを買い占めるのはけしからん」と言って、必ず“売り”から入るんです。でも、売りから入っても買いから入っても、国民が食べるお米を元手に“切った張った”をやっているのには変わりはない。つまり屁理屈ですよね(笑い)。ただし、屁理屈であっても、自らのディシプリン、原理原則をちゃんと持っていることが大事で、逆に言えば、そういう原理原則がなければ成功しないという気がするんです。
奈良岡:現代には、ともするとお金を稼ぐためには何でもしてもいい、稼いだお金は何に使ってもいいという、なりふり構わずな風潮があると思うんですが、そうではないお金との付き合い方がかつてはあったということですね。
出口:昔の日本はよかったと言いたいわけではないんです。ただ、僕らが“これが日本人だ”と思い込んでいるイメージは、製造業の工場モデルが社会を引っ張った戦後一時期の日本人を勝手に日本人の本質だと思ってるだけじゃないかと。ほんの100年ぐらい戻っただけでもずいぶん違う風景が見えてくると思うのです。