ビジネスをめぐる戦いが熾烈なものになることは珍しいことではない。だが、あくまで踏み越えてはならない一線はある。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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今年6月、一組の夫婦に対し刑事罰が言い渡された。河北省武邑県の裁判所における一審判決である。メディアは一斉にこのニュースを報じた。その一つである『検察日報』(北京)がつけた見出しはこうだ。
〈長距離バスの運転手夫婦が、ライバル企業から客を奪うため、バスに爆薬を仕掛ける〉
香港で量産されるカンフー映画では、ライバルの商家が互いにお抱えのチンピラを差し向けて、相手の店をメチャクチャに破壊するシーンかお約束のように登場するのだが、まさにそんな話の小型版だ。ただ、小型版といっても爆弾を造ってしまってはシャレにならない。
犯人である夫婦は、河北省の労働者で、二人で一生懸命に働き、ついに大型バスを一台手に入れると、念願だった会社を立ち上げたのだった。2016年のことである。北京と河北省を結ぶ路線は、需要もあり、二人会社はとても順調なスタートを切った。
だが、間もなくライバル社が同じ路線で運行を始めると、雲行きが変わった。夫婦とライバル社は、熾烈な競争をおこなうだけでなく、時には客を取り合って殴り合う事件まで起こすようになってゆくのだ。
そうしたなか、夫婦は、ライバル会社に打撃になるよう、安全検査にひっかかるようなものを積み込み、検査官に密告するという方法を思いついた。それが今回の事件につながったのである。
二人は花火を大量に買い、それを解体してペットボトルに詰め、それをリンゴの入った籠の中に入れると、客の目に留まりにくい席の下に放置し、安全検査官に密告したのだった。爆破するつもりはなかったとはいえ、大量の火薬を放置したのだから、とんでもない事件になっていても不思議ではない。
夫婦はそれぞれ3年と6カ月、3年と4カ月の刑を言い渡された。