日大アメフト部による危険タックル指示、財務省事務次官によるセクハラ発言、市長の女性職員に対するセクハラ……。数々と明るみに出る組織内のハラスメントは、単にガバナンス(統治)の方法を変えるだけでは防げないほど根が深い問題といえる。「日本の共同体型の組織自体を見直す必要がある」と力説するのは、同志社大学政策学部教授の太田肇氏だ。
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わが国の伝統的な企業や役所の特徴をひとことで言いあらわせば、家族主義、あるいは共同体型の組織だろう。それは人に優しくてチームワークに優れ、メンバーの意欲と能力を引き出す優れたシステムであると高く評価されてきた。
ところ近年、その評価に疑いの目が向けられるようになった。周知のように日本企業の生産性や国際競争力は1990年代をピークに下落し、その後も低迷が続いている。その一因が非効率な日本型システムにあるというわけだ。また役所や大企業で続発する不祥事も、不透明で閉鎖的な組織が関係していると考えられている。
そして、共同体型の組織は「人に優しい」という評価もまた揺らぎはじめている。
その一つが、セクハラやパワハラといったハラスメントの頻発である。とくに伝統のある企業や役所のような、共同体的風土が色濃い組織での発生が目立つ。さらに注目されるのは、財務省の事務次官によるセクハラ発言や、市長の女性職員に対するセクハラ、会社の取引先に対するパワハラなど、「共同体」の範囲が職場の外にまで広がり、内輪の論理がまかり通っている実態である。
共同体は本来、家族や地域集落のように自生的な生活を共にする人たちの集団である。ところがわが国の会社や役所は、仕事をするための組織であるにもかかわらず、共同体のような一面を備えている。
いったんそのメンバーになると、組織への忠誠と引き替えに定年近くまで安定した雇用と待遇が保障される。「同じ釜の飯」を食うメンバーどうしは、互いに情緒的で密接な関係を結ぶ。上司と部下の関係も仕事上の役割を超えた、まるで親と子に近いような人格的上下関係になる。