ライフ

34年ぶりに蘇った絵本『馬のゴン太の大冒険』への作者の思い

13才のLaraちゃんが挿絵を担当(『馬のゴン太の大冒険』より)

 1984年、ひとりの若者が自身の体験を1冊の本にまとめた。タイトルは『馬のゴン太旅日記』(小学館)。その名の通り、道産子と呼ばれる馬にまたがり、北海道・函館から九州・鹿児島まで、日本を縦断した113日間の記録。作品は『第7回絵本にっぽん賞』を受賞、『全国学校図書館協議会選定「よい絵本」』に選ばれ、ロングセラー絵本として親しまれてきた。

「小学生のころ、図書室で夢中になって読みました。まさに旅のバイブルです」(44才・会社員)といった声が多い人気作品が、今度は『馬のゴン太の大冒険』となって帰ってきた!

『馬のゴン太の大冒険』は著・島崎保久、絵・Lara。北海道・函館の牧場でのんびりと暮らしていた道産子・ゴン太(4才)は、離れ離れになったお母さんと会える日を夢見てたくましく育っていた。そんなゴン太の前に、突如、現れたのが東京の大学生・シマくん。「さぁ、ゴン太! オレと日本縦断の大冒険に出発するぞ!」──好奇心旺盛でやる気だけは人一倍。だけど乗馬の経験もないシマくんとゴン太のふたり旅。悪戦苦闘しながらも、ゴールの九州・鹿児島を目指して絆を深めあっていく…。ラストの思わぬ展開に涙が止まらない。

 原作となった『馬のゴン太旅日記』の出版から34年。今、なぜまた新たな形でゴン太との旅物語を綴ろうと思ったのだろうか? 著者である島崎保久さんに話を聞いてみた。 

「ゴン太の墓は、ぼくの故郷三重県の紀伊半島の海を一望できる丘にあります。帰郷するたび、お墓参りをするのですが、その直後、必ずといっていいほど坂道で転んだり、高熱にうなされたりするんです。まるでゴン太から『シマくん、帰らないで! ひとりぼっちにしないで!』と引き止められているように感じていました」

 いつも後ろ髪を引かれる思いが心のどこかにあった。

「考えてみれば、これまでゴン太との旅の思い出は絵本にはなっていたものの、細かなエピソードはほとんど綴ってはいませんでした。そこで、ゴン太への鎮魂歌として、今度はゴン太の語りでエピソードを書いてみたい、と思ったんです」と島崎さん。

 児童書として発売され、多くの人々に愛され続けてきた“馬のゴン太”。夢を持って諦めずに突き進むシマくんを全力で支えたその姿に、再びたくさんの感動が沸き起こるだろう。島崎さんはゴン太の墓前でこう話しかけたという。

「ゴン太、皆がオレとお前の旅の話を読んでくれるんだよ。もう、ひとりぼっちじゃないよ、さみしくないよ。安らかに眠ってくれ」

 ゴン太の喜ぶ声が聞こえてきそうだ。

 今回の『馬のゴン太の大冒険』で挿絵を担当したのは13才のLaraちゃん。英語、フランス語、日本語の3か国語が堪能で、10代、20代女性に人気のブランド『サマンサ タバサ』のスマホケースや財布などのデザインも手がけている超新星イラストレーターだ。Laraちゃんにも、『馬のゴン太の大冒険』に対する思いを聞いた。

「この本の挿絵を描かせてもらうって決まったとき、ゴン太はすぐに描けたんだけど、シマくんは会ったこともなかったし、難しかったです。

 そこで、お母さんがインターネットで検索をして実際のシマくんとゴン太の写真を見せてくれ、自分なりにキャラクター作りをしてみました。いちばんのお気に入りは、お母さんとまだ小さなゴン太が仲よく一緒にいる絵です。

 そうそう、旅の終わりのシーンに出てくる桜島も見たことがなかったから、どんなふうに描けばいいのかなってちょっと悩みました。

 本を読んだとき、最初はシマくんのこと、あんまり好きになれなかったんです。なんか意地悪な男の子だな~って。これじゃゴン太がかわいそうだよって思いながら読んでたんだけど、途中からはゴン太、幸せだなって胸があったかくなりました。それはシマくんがゴン太を大切にするようになったから。

 いつか私もシマくんみたいに日本縦断にチャレンジしてみたいな」

※女性セブン2018年8月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(写真は2019年)
《体調不良で「薬コンプリート!」投稿》広末涼子の不審な動きに「服用中のクスリが影響した可能性は…」専門家が解説
NEWSポストセブン
いい意味での“普通さ”が魅力の今田美桜 (C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
朝ドラ『あんぱん』ヒロイン役の今田美桜、母校の校長が明かした「オーラなき中学時代」 同郷の橋本環奈、浜崎あゆみ、酒井法子と異なる“普通さ”
週刊ポスト
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン
筑波大の入学式に臨まれる悠仁さま(時事通信フォト)
【筑波大入学の悠仁さま】通学ルートの高速道路下に「八潮市道路陥没」下水道管が通っていた 専門家の見解は
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
《事故前にも奇行》広末涼子容疑者、同乗した“自称マネージャー”が運転しなかった謎…奈良からおよそ約450キロの道のり「撮影の帰り道だった可能性」
NEWSポストセブン
長浜簡易裁判所。書記官はなぜ遺体を遺棄したのか
【冷凍女性死体遺棄】「怖い雰囲気で近寄りがたくて…」容疑者3人の“薄気味悪い共通点”と“生活感が残った民家”「奥さんはずっと見ていない気がする」【滋賀・大津市】
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン