【著者に聞け】島村洋子さん/『バブルを抱きしめて』/KKベストセラーズ/1512円
【本の内容】
昨今の不倫騒動に対する世間の厳しい目に対して、昔を振り返りつつ著者は書く。〈どれだけの人に会って、どれだけの交わりを持ち(いえ、そういう意味ではなく(笑))、どれだけの思い出を持ったかが、その人生の値打ちではないのか〉。出て来るエピソードは1964年生まれの著者の人生を折々に彩った事件や芸能ニュース、巷の流行など。昭和を懐かしみニヤニヤしつつ読んだ後、改めて30年にわたる平成とはどんな時代だったのか感慨に耽りたくなる。ちなみに古谷一行のひと言(本記事で詳細は説明)は、〈「彼女がそう言っているならそのとおりだ」〉。しびれる。
雑誌連載時のタイトルは「平成になじめない」だった。
「みんななじんでるんだろうか、自分だけなじめないなんて言うと年寄りみたいに思われるからずっと黙ってたんですけど(笑い)。なじめないまま、平成が終わると発表されちゃったんです」
平成を生きた時間の方が長くなっても、昭和の文化によりなじみがある。新しい「ドラえもん」の声になかなか慣れず、週刊誌を読めばとっくになくなった連載頁を探してしまう、というのは実は多くの人が同じように感じていることなのかもしれない。
昭和60年に証券会社に就職、同じ年に作家デビューした島村さんが、リアルに体感した「バブル」の時代の、いわくいいがたい面白さも描かれている。
「若い人には平野ノラのイメージぐらいしかなくて、細かいことは伝わってないから、それなら書いておきましょう、と。出版社なんて、1冊も雑誌が売れなくても広告が入るからいいんだ、なんて言ってた時代ですからね。改めて資料にあたったりはせず、記憶を頼りに書きました。なにしろ、昨日のことのように思ってるもので」
昭和から平成へと移り行くときの、あのゆっくりした時間の流れ方。過去は美しく思い出されるというのとも違う、昭和の記憶には、独特の濃さがまとわりついている。
「知り合いと話していて、座間のアパートで9人殺害した事件の、容疑者の名前を思い出せない。大久保清が殺したのって8人ですよ。座間の事件だって犯罪史上に残るものなのに、もはや話題にすらならない。とにかく消化が早くて、みんな、じっくり考えることなく忘れてしまう」
漫才ブームがどのようにやってきたか。不倫について聞かれた古谷一行が発したひとことが、どんなにすばらしかったか。
「平成って、明るいんですよね。ある編集者が言うには、時代小説に『妾』が出てくると、苦情が来るそうです。そんなことってあります? 不倫が悪いと言っても現実に愛人の子として産まれてくる人もいるのに、そんな人はいないみたいになっている。そこまで清潔な世の中をみんな望んでいるのか、って私は思ってしまいます」
◆取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2018年8月2日号