中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏によれば、「お骨」をめぐる日中の意識の差異は案外大きいのだという。それを象徴する事件も起きた。富坂氏がレポートする。
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日本ではかつて、「最大の親不孝は親より先に死ぬこと」という言葉があった。同じような意味で考えれば、中国では「子供ができない(結婚しないことを含む)こと」がそれに当たるかもしれない。
儒教などの影響が端々に残る中国人の生活の中でも、先祖の供養にかかわる話は、風水にも深く関ってくる問題だけに神経質に反応する。その一つが遺体の扱いであり、もう一つが骨壺である。
中国はいま基本的に火葬が義務付けられているが、監視の目をかいくぐって土葬を行なおうとする犯罪が多い。土葬を諦めた者たちにとって次に大切なのが、焼却後のお骨ということになる。このお骨をめぐる問題は、実は中国社会では絶えない。
例えば、重大な罪を犯した者は、死後、遺体が焼却されて骨になった後でも、供養する施設から受け入れを拒まれたり、たとえ受け入れてくれたとしても骨壺に名前を入れないことが条件として提示されるなど、さまざまな困難が待ち受けている。
さて、その大切なお骨をめぐり、世間を騒がせたのは、江蘇省に住む左という48歳の労働者だ。左は、地元で電子部品を生産する工場の労働者として働いていて、裕福ではなくとも生活に困るようなこともなかった。しかし、株の売買が大好きでのめり込み、大きな借金を抱えてしまった。借金の額は2012年に20万元(約340万円)になったのを皮切りに増え続け、最終的には50万元(約850万円)にまでふくらんだという。
困った左が考えたのが、骨壺を奪って、「身代金」を要求するというものだ。左は、考えたとおりにそれを実行したが、骨壺を盗られた家族はだれもそれを信じず、左が「身代金」を手にすることはなかった。
左の犯行は2013年から今年1月までに5件4家族に及んだが、彼が手にした金はなかった。裁判所が左に下した判決は、3年の禁固と罰金1万元(約17万円)だったという。