大きな病気がなく元気のようでも、人は加齢によりいろいろな機能が衰え、生活も変化する。そのため、知らず知らずに食事量が減ったり偏った食べ方になったりして、低栄養を招くという。
管理栄養士で医科学・理学修士の成田美紀さんはこういう。
「まず噛む力や飲み込む力が低下し、唾液も少なくなるので、スムーズに食べられなくなります。味覚や嗅覚、視覚、消化力が衰えることで食欲も低下しがち。食べること自体が億劫になるのです。
身体的なこと以外でも、子供の巣立ちや配偶者、親しい人との死別など、年を重ねるごとに生活環境が大きく変化することがあります。それまでの生活パターンが変わったり、健康を心配し合い食事を作ってあげる相手がいなくなったりすれば、食事をする気力が湧かなくなるのも無理はありません」
若い世代にとって食べることは、存分に仕事や生活をするために欠かせないし、生きる活力にもなる。でも高齢者にとっては必ずしもそうではないのだ。だからこそ、家族や周囲の人の気遣いや声掛けは大切だ。
「少なくなりがちな食事の中で、無理なく、バランスよく栄養素を摂るためには、食品で考えるのがおすすめです。1日ごとに、以下10種類の食品が摂取できているかをチェックしよう。
(1)肉類
(2)魚介類
(3)卵
(4)大豆・大豆製品
(5)牛乳・乳製品
(6)緑黄色野菜
(7)海藻類
(8)いも類
(9)くだもの
(10)油脂(オイル)
この10食品をひと通り食べれば、たんぱく質、脂質、ビタミン・ミネラルなどの必要な栄養素がだいたい摂れます。また、(曜日ごとの表を作り)チェックすることで足りないものが一目瞭然。バランスを整えるために何を補えばよいかがわかります」
食事の習慣を改善するのは意外と難しい。いきなり理想形を目指すより、今の食事に足りないものを補うだけならすぐに始められそうだ。
高齢者は活動量が少ない。だから“成長期や働き盛りの世代ほど栄養は重要ではない”と、実は思っていたのだが、大きな間違いだった。
「高齢になると、体は確実に衰えていきます。特に筋肉や骨量は何もしなくても日々落ちていく。ですから毎日、しっかり補わないと、どんどん衰えてしまうのです。中年までは食べる量が少し減ってもある程度、体の機能は維持されるので、この切実さがなかなか理解されません。また高齢者本人も中年までの感覚で“食べなくても大丈夫”と勘違いしがちです。 でも高齢者こそ、たんぱく質などの栄養素をしっかり摂る必要があるのです」
また中年は生活習慣病の予防として、“高カロリー、高コレステロールの食事を避け、野菜をとりなさい”と、言われ続ける。これも高齢者の偏った食生活に少なからず影響しているという。
「高カロリーの代表の肉類、高コレステロールの象徴、卵を意識的に控える高齢者が多いのです。でもこれらは少量で良質のたんぱく質が摂れますから、むしろ欠かさずとりたい食品です。近年、動脈硬化などの原因になるといわれる血中コレステロール値に、卵に多く含まれる食事性コレステロールはさほど影響しないことも判明しています」
※女性セブン2018年8月2日号