「もしもし」
「…もしもし? あなた、誰ですか?」
「いきなり名前を訊ねるというのも失礼なかたですね。このスマホの持ち主の名前はわかりませんが、あなたが稲葉麻美さんだってことはわかりますよ」
「な、なんで、私の名前を知ってるんですか?」
「はは…」
思わず背筋をゾクリとさせられた読者もいるのではなかろうか。ミステリー小説『スマホを落としただけなのに』(宝島社)はこのようなやりとりから始まる。
都内でOLとして働く主人公・稲葉麻美の彼氏がスマホを落とし、それを連続殺人犯のハッカーが拾ったことから、麻美の個人情報が流出して、さまざまな災厄が降りかかってゆくミステリー作品である。
今や私たちにとってスマホは単なる“携帯電話”ではなく、財布であり手帳でありカメラであり日記でありアルバムであり…。人間関係もお金も、生活に関するすべての情報が200gに満たない機械に凝縮されている。そんな時代にスマホを落としたら一体どうなるのか──。
「昔から酔っぱらって携帯をよく失くしていたんです。携帯ならまだしも、スマホを落としたらえらいことになる。そんな失敗から、小説の着想を得たんです」
苦笑いを浮かべながら語るのは、『スマホを落としただけなのに』の著者である作家の志駕晃さん。小説の原点になったのは、「スマホが持つ情報量の多さ」だった。
「スマホには電話帳はもちろん、SNSのアカウントや写真などあらゆる個人情報が入っていますよね。だからもし紛失してそれらのデータがすべて消えてしまえば、大きな損害になる。そのうえ、紛失したスマホがハッカーの手に渡れば、なりすましやフィッシング詐欺などでデータを盗まれるリスクもある。誰もが何の気なしにスマホを使ってSNSで自分のことを発信する時代ですが、本当にセキュリティーは大丈夫なのか、みんなが心の片隅に抱えながらも目をそらしている不安を小説で表現しました」(志駕さん)
勤務先の情報、彼氏の名前、浮気相手の素性、そして自分と彼氏の赤裸々な写真…。
「スマホを落とす」という一見些細なアクシデントによって、主人公の個人情報は文字通り“丸裸”にされてゆく。小説の読者からは、「リアルに起こりそうで本当に怖い」「読んでいてヒヤッとした」との反響が寄せられているという。
小説のようにスマホを落とさなかったとしても、現実の世界におけるSNSへの何気ない投稿は、私生活を脅かす大きなリスクを伴う可能性がある。
◆SNSに「雷鳴った!」で場所特定
インターネットにおけるリスク管理に詳しいITジャーナリストの三上洋さんが解説する。
「SNSへの投稿は写真と文章で成り立っていますが、双方とも思わぬところに盲点があります」
まず、写真で気をつけるべきは「背景」だ。