東京郊外の駅近タワーマンションの売れ行きが好調だという。都心より割安で、かつ生活の利便性も高まると、地方から引っ越してくるシニア層も多い。だが、そんな需要を見越してタワーマンションを林立させた結果、様々な弊害が起きている。神奈川県川崎市にある「武蔵小杉」はその典型だ。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が武蔵小杉の現状を憂う。
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そもそも、タワーマンションは限られた土地に数多くの住戸を作るための必要悪のようなもの──と私は考えている。そこに住むメリットは、高層階からの爽快な眺めと開放感。あるいは大規模であるが故の充実した共用施設。それくらいのものではないだろうか。
タワーマンションのデメリットをあげれば、キリがなくなる。何よりも、そこに住んでいない近隣住民にとってはその存在自体は迷惑そのものでしかない。
まず、外観が醜悪である。建築造形というのは、それ自体が街並みを形成する芸術作品である、とヨーロッパ人は普通に考えている。だから、街並みにそぐわない建築様式は規制される。また市民の意識として作らない。だから、ヨーロッパにはタワーマンションの類はほとんどない。
そのあたり、日本人の感覚は大きくずれている。タワーマンションが醜悪だと捉える人は、ほんの少数派だ。だから、日本中のあらゆるところにタワーマンションが建てられている。
次に、周辺の街並みへの日照を阻害する。例えば、川崎市の武蔵小杉のある一画では、現在計画中のタワーマンションがすべて竣工すると、一日にほんの数時間しか日照を得られなくなるという。迷惑この上ない話ではないか。
もっとも、本来わざわざタワーマンションをさほど作らなくてもいい場所にまで大量に建ててしまったことによって、武蔵小杉は様々な悲劇を生んでいる。
「改札にたどり着くまでに何分もかかる」──そういう報道でにわかに脚光を浴びたこの街。JR横須賀線の「武蔵小杉」駅が開業したのは2010年。東京駅まで一気に直通でアクセスできることになった。
その頃から、駅周辺はタワーマンションの建設ラッシュとなった。分譲と賃貸を合わせて十数本のタワーマンションが天空を貫くように立っている。当然、人口も急増した。
その結果、JRの2つの「武蔵小杉」駅と、東急東横線の「武蔵小杉」駅では朝夕のラッシュ時には大変なことになっている。特にJR横須賀線の「武蔵小杉」駅は地元から利用する人と、南武線から乗り換える利用者でラッシュ時にはホームに人が溢れる。
ところが線路が湾曲しているために、ホームと線路の間に柵やホームドアを取り付けることが困難だという。現在、ホームの増設が計画されているが、いつ事故が起こってもおかしくない状況に見える。