好スタートをきった作品が数字を保ち続けるとは限らないのが昨今のドラマの特徴でもある。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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「ドラマ」は時代を映します。その代表作の一つが、経済ドラマ『ハゲタカ』。ご存じの方も多いと思いますが、この作品、最初はNHKの土曜ドラマ(2007年)で放送されました。そしてこの夏、初回視聴率第2位と好発進した新バージョンの『ハゲタカ』(テレビ朝日系木曜午後9時)。
綾野剛が演じる主役・鷲津政彦は、外資系ファンドの“ハゲタカ”。「伝説の”企業買収者”が腐った組織のトップを叩きのめし、痛快に日本企業を甦らせる!」(テレビ朝日リリース)というストーリー。
でもなぜ今このドラマ? 「バルクセール」「血も涙も無い外資」なんて言われても、若い視聴者はピンとこないはず。ハゲタカは今、どの空に飛んでいる? 視聴者のとまどいに答えなければなりません。第1話、2話を見て、ドラマに描かれた90年代後半という時代と今との「ズレ」を痛感させられました。
原作の小説『ハゲタカ』が描き出した舞台は、バブルが崩壊した日本。闇雲に融資しまくった結果、膨大な不良債権を抱えていた銀行。「腐った」組織の大手・三葉銀行の前に、突如現れた外資系の企業買収者・ハゲタカ。「日本企業はいったいどう料理されてしまうのか」と右往左往するエリートサラリーマンたち。
最初にドラマが放送された2007年を振り返ると……バブル崩壊の混乱は収束しつつありましたが、その痛い記憶も風化しない中、今度はアメリカのサブプライムローン危機が膨らんでいた。つまり、戦後順調に成長してきた日本の経済も、もはや安泰はないという不安感、危機感が世を覆っていた。その中で放送されたNHK『ハゲタカ』の評判は、回を追うごとにぐんぐんと高まり、結果として映画にもなりました。
その時、ハゲタカ・鷲津政彦を演じたのが大森南朋。今や大森さんは人気役者となりCMも出まくりで笑顔をふりまいていますが、当時はまだお茶の間に存在は浸透せず、むしろ不気味な存在だったと言ってもいいかもしれません。顔や名前を知っている人は限られ、舞踏家・麿赤兒の息子だとわかって見ていた人なんてよっぽどのアングラ通。そして、そのことが結果として、ドラマに緊張感を与えていた。
いったいこの人は何者か。何をしでかすのか。つかめない人格、怖さ、違和感。鷲津が放っていた「異物感」が、外からやってきたハゲタカの質感と重なりあって不気味さが増幅されました。となると、今回鷲津を演じる綾野剛さんは重責でしょう。このドラマの中で、鷲津の存在は非常に大きい意味を持つからです。