【著者に聞け】パリッコさん/『酒場っ子』/スタンド・ブックス/1620円
【本の内容】
〈「いいお店を探し出す嗅覚があるんですね!」〉。こんなふうによく言われるというパリッコさんだが、そんな超能力はないのだとか。〈強いて持っているとすれば、酒場に対する、人よりちょっと旺盛な「好奇心」のみ〉。本書はパリッコさんが未知の大衆酒場に飛び込んで、食べて飲んだ記録。東京の大衆酒場を中心に、時に山梨や静岡、京都や沖縄にも足を延ばす。巻末には本文に登場する店名と人物の索引も付いていて、実用的だ。
若手飲酒シーンの旗手、と本の帯に書かれている。酒エッセイのニューウエーブとして注目を集める著者の初めての単著は、全国の大衆酒場の訪問記だ。登場する店は100軒以上、読むだけで酔いが回ってきそう。
「基本、何でもかんでも楽しんでしまえるし、食べものから異臭がするぐらいのことがないと『この店は外れ』だなんて思いません。ホワイトボードに書かれたメニューが全然なくて、『漬物しかない』と言われても、それはそれで面白いなあと感じる方なんで」
ネットのグルメサイトの真逆を行く姿勢で、相対評価の星や点をつけたりはせず、それぞれの酒場の持ち味、なぜ心ひかれるかを的確に文章で表現する。誰もが知る老舗や名店よりも、自分の行動範囲の中で興味を持った店を中心に紹介している。
「もともと散歩がすごく好きで、初めての町に友達と遊びに行くときなんかも、遠足前の子供みたいにわくわくして、一度自分でWEB上で仮に散歩したりするんです。歩いていて外観が渋い店が気になると、よし、ここを候補にしておこうか、という感じで見つけています」
1人で飛び込むことも多い。初めての酒場で、店の人に話しかけるコツなどはあるのだろうか。
「メニューのことで何か聞く。『魚に力を入れてるんですか』なんて尋ねたりすると、常連さんが加わって話が広がることもあります。ただ、自分もコミュニケーションがそう得意ではないので、最後まで注文以外、無言ということも多いですよ。1人で黙ってお酒を飲むのも心地いいです」
「見える人にしか見えないお店」や「天国酒場」など、ぜひとも足を運びたくなるような、紹介のしかたが絶妙。時には奇跡のような出会いもあって、読後は、自分の町のいつもなにげなく通り過ぎている一角に、こんな酒場がないだろうかと探したくなる。
「酒屋の一角で飲む角打ちなんて、もともとは缶詰とかスナック菓子で飲むものですけど、家で食べても同じなのにわざわざ飲みに来るのは店の人や常連同士のつながり、店の雰囲気があるから。そんなところに酒場の秘密って隠されてるんじゃないかと思います」
◆取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2018年8月9日号