ボールパークとは野球場のことだが、近年では、野球観戦だけでなく、飲食やファンサービス、レクリエーションを楽しむことができる空間全体を指している。日本のプロ野球に広がりつつあるボールパーク化だが、なかでも2020年東京五輪の試合会場にもなった横浜スタジアムと、そこを本拠地にする横浜DeNAベイスターズは、最寄りの関内駅も巻き込んだ変化となっている。ライターの小川裕夫氏が、プロ野球と鉄道の新しい関係性についてレポートする。
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ファッション通販サイトのZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの前澤友作社長が「大きな願望」と前置きした上で、プロ野球への参入を示唆するツイートをし、注目を集めている。プロ野球チームを所有することは、企業のステイタスとされている時代があった。プロ野球チームの親会社を見れば、日本経済界で勢いのある企業や業界・産業動向を知ることができる。
バブル期までの鉄道会社は、日本社会や経済を牽引する屈指の企業であり、日本を代表する産業でもあった。それゆえに鉄道会社は、文化やスポーツ振興にも盛んに取り組んでいる。
過去にプロ野球チームを所有した鉄道会社は、阪急がブレーブス、南海がホークス、近鉄がバファローズ、東急がフライヤーズ、国鉄がスワローズ、西鉄がライオンズといった具合に数多あった。また、名鉄もドラゴンズの経営に参画していたほか、二軍限定の独立チームながら山陽電鉄はクラウンズを組織している。短命に終わった女子プロ野球チームでは、京急が京浜ジャイアンツを結成してもいる。このように鉄道会社は資本力と大きな存在感で、プロ野球の発展に大きく貢献してきた。
マイカーが普及してくると、鉄道会社の存在感は縮小。現在、球団を所有している鉄道会社は、西武鉄道-ライオンズ、阪神電鉄-タイガースの2社しかない。鉄道会社と野球の関係は、以前より明らかに希薄になっている。
ところが、ここにきて鉄道と野球が再接近している。プロ野球チームが人気回復の一環として取り組んだ“ボールパーク化構想”は、地元自治体を巻き込み、それが鉄道にも如実に反映されているからだ。
セ・パ12球団のうち、横浜DeNAベイスターズはボールパーク化をもっとも強く打ち出している。横浜スタジアムで試合が開催される週末は、試合開始前からスタジアム周辺でステージイベントが開かれ、屋台などが並ぶ。ファンは野球観戦だけを楽しみに来場するのではなく、スタジアム周辺、もっと言ってしまえば街全体を楽しもうと足を運んでいる。
DeNAは、一般的なボールパークの概念をさらに深化させた「コミュニティボールパーク」構想を掲げる。ベイスターズのコミュニティベースボールパーク構想は、スタジアムが立地する横浜公園だけではなく、動線となる鉄道駅にも及ぶ。
「DeNAがベイスターズの経営にタッチしたのは、2012年のシーズンからです。その年の4月には、JR京浜東北・根岸線の関内駅、横浜市営地下鉄の関内駅、みなとみらい線の日本大通り駅の3駅を“ベイスターズ・ステーション”と宣言しました」と話すのは、横浜DeNAベイスターズ広報部の担当者だ。