前立腺がん患者は増加傾向で、手術は年間2万件以上実施されている。がんの手術は成功しても、術後約70%で尿漏れが起こる。日本人男性は平均で1日1500ccの尿を排泄するが、1日200~300cc程度の漏れならば、パッド1~2枚で対応できる。これら軽症の尿漏れは半年から1年で、ほとんど症状が改善する。
しかし、1500ccの尿のほとんどが、そのまま漏れてしまう重症例では、おむつを手放せず、外出もままならなくなり、うつ傾向が強くなる患者も多い。国立がん研究センター東病院泌尿器・後腹膜腫瘍科の増田均科長に話を聞いた。
「前立腺がんの好発部位(病変が起こりやすい部位)は、尿道括約筋と極めて近い位置にあります。手術では再発予防を考え、一部括約筋を切除せざるを得ない場合もあり、程度の差はあれ、術後の尿漏れは起こります。ほとんどの方は6か月以内で急速に改善しますが、改善しないまま年月が経つ重症例も年間300~400人います。そこで重症例の尿失禁の治療法として開発されたのが、人工尿道括約筋(AMS)治療です」
AMSは尿道にまくシリコーン製のテープ(カフ)とチューブで繋がっているコントロールポンプ、水が入っている直径約2㌢の圧力調整バルーンからなる器具だ。全身、または腰椎麻酔で会陰部と下腹部に、それぞれ1か所、各5センチ切開し、器具を埋め込む。手術時間は60~80分程度で、体内に留置後、6~8週間経過したら使用を開始する。
日頃は尿道に巻いたカフで圧をかけており、排尿する場合は陰嚢に留置されたコントロールポンプを外から指で数回つまむ。これでロックが外れ、カフ内の水が圧力調整バルーンに移動し、尿道の圧が弱まって排尿できる。1~2分すると再び水がチューブ内を移動し、尿道のカフに圧がかかり尿道が閉まる。要は尿道括約筋を器具が担い、人工的に排尿を行なう仕組みだ。