〈ただいま、市内の気温が38℃を超えました。熱中症に気をつけてください〉
防災無線のスピーカーから市民に注意が呼びかけられた。小学校の運動場には人っ子ひとりいない。岐阜県多治見市。7月23日に気温40.7℃を記録した、全国有数の灼熱地帯である。市内の小学校に子供を通わせる母親が汗を拭って言う。
「とにかく暑い。子供は家に戻ると汗だくでグッタリしています。すぐにシャワーを浴びさせて、冷房を効かせた部屋でようやく一息です。こんな状態で学校の教室にエアコンがついていないなんて怒りを覚えます」
多治見市は今年4月現在、公立の小中学校21校すべてにおいて、教室(※各学級ごとに割り当てられた、通常の授業を受けるための普通教室を指す。保健室や図書室、音楽室など特殊教室は除く)にエアコンが設置されていない。
「教室は室内でも35℃を超えて、扇風機の効果はほとんどありません。いつもの夏よりさらに暑く、授業以上に子供の体調管理に気を使います」(多治見市の小学校教諭)
岐阜県全体の小中学校のエアコン設置率は55.2%で全国16位に位置する。自治体の「エアコン格差」は子供に何をもたらすのか。
◆設置は自治体の判断がすべて
悲鳴をあげたのは子供たちだ。愛知県豊田市の小1男児が7月17日、校外活動を終えた後に体調不良を訴え、熱射病で死亡した。その日、豊田市の最高気温は37.3℃。児童が体を休めた教室にはエアコンがなく、扇風機4台が設置されていた。ちなみに、豊田市の小中学校のエアコン設置率は0.5%だ。
子供は筋肉量が少ないため体内に充分な水分をためられない。また、発汗して体温を調整するための汗腺や自律神経が未発達だ。なおかつ、体重に比べると、体の表面積が大人より大きいので、外の熱を吸収しやすいため、熱中症になりやすい。しかも、教室では人が密集するので体感温度が高くなる。夏に気温が高い地域では、熱中症対策の空調は必須なのだ。
ところが、多治見市や豊田市が示すように、一部の自治体のエアコン設置率は驚くほど低い。名古屋大学大学院准教授で、教育社会学が専門の内田良さんが指摘する。
「エアコン設置率の全国平均は、1998年の3.7%から2017年の49.6%に大幅に上昇しました。それでも猛暑の中、全国の半数の教室にエアコンが設置されていないのは驚きです」
とりわけ内田さんが疑問視するのは「自治体格差」だ。