祖国を護るために身を捧げた多くの軍人たちの生き方は、我々に多くのことを語りかけてくる──。
日露戦争、中でもバルチック艦隊を破った日本海海戦の勝利は、指揮官である海軍大将(元帥)・東郷平八郎の名を広く世界に知らしめた。諸外国からは「アドミラル・トーゴー」「東洋のネルソン」などと呼ばれ讃えられた。とりわけ、当時、ロシアの脅威にさらされていたトルコは、日本の勝利を我が事のように喜んだ。
歴史家で中東地域研究者の牟田口義郎氏(故人)は、かつてトルコ大使館主催のパーティーで駐日トルコ大使から次のような質問を受けた。
「アドミラル・トーゴーって何国人ですか?」
「もちろん日本人です」と牟田口氏は答えるが、トルコ大使は「トルコにもアドミラル・トーゴーがいる」と返した。1905年の日本の勝利を喜んだトルコでは、その年に生まれた男児の多くが「トーゴー」と名付けられた。その中に、トルコ海軍の提督になった秀才が一人いたのだという。
●取材・構成/浅野修三(HEW)
※SAPIO2018年7・8月号