「災害」に匹敵するレベルといわれる今年の猛暑。子供たちの熱中症を防止するためにも、公立小中学校の教室のおけるエアコン設置の必要性も指摘されている。しかし、エアコン設置に反対する人もいる。名古屋大学大学院准教授で、教育社会学が専門の内田良さんは、こんな現状を明かした。
「最終的にエアコン設置の判断は首長や教育委員会、議会に委ねられます。エアコン設置という子供の学校の環境整備をどれだけ重視するかによって、首長らの判断は異なります」(内田さん)
たとえば埼玉県所沢市の藤本正人市長は2011年の就任後、「東日本大震災を経験し、私たちは便利さや快適さから転換すべきだ」などと主張して小中学校へのエアコン設置に反対を表明した。2015年にはエアコン設置をめぐる前代未聞の住民投票が行われ、賛成が反対を上回った。その後、藤本市長は市内全校の設置を発表した。
エアコンの効能は子供の熱中症を防ぐだけではない。
文部科学省の資料によると、2009年度に中学校14校にエアコンを設置した大阪府茨木市では全国学力・学習状況調査の結果が徐々に上昇した。またアメリカの全米経済研究所は、エアコンのない教室の温度が約0.6℃上がると学習効率が下がり、テストの偏差値が0.032ポイント下がるとの推計を報告している。
エアコン不要という“精神論”が一部にあるが、空調がなく酷暑の教室で被害者となるのは弱者の子供たちだ。内田さんは「できるだけ早くエアコンを設置すること」を国に求める。
「子供の教育環境を考えた時、都道府県や市町村の間でこんなに格差があるのは許されないことであり、すべての子供が快適な温度で公平に授業を受けるべきです。義務教育は国の問題なので、エアコン格差を是正するのは国の責任。政府は補助金の捻出などで市町村の財政を積極的にサポートする必要があります」
猛暑から子供を守るために親がやるべきこともある。
「教室にエアコンのない地域では親が声をあげるべきです。1人ではなく複数の親で校長や教育委員会に要望を出し、議会や首長を動かすことが大事です」(内田さん)
エアコンは「贅沢」ではなく「必需品」。子供の生命を守る大切な手段である。愛知県豊田市では7月17日に、小1男児が熱射病で死亡している。この一件後、菅義偉官房長官は政府による小中学校へのエアコン設置の財政補助を検討する考えを示した。教室の子供たちが一日も早く涼しい風に吹かれることを願うばかりだ。
※女性セブン2018年8月16日号