バブルを謳歌する中国でのお金の動きは相変わらず激しい。それは些末な事件からも伺い知れる。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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時代を反映した話とみるべきなのか、それとも極めて特殊なケースといえるのだろうか──。エリートサリーマンの間で起きた一つの恐喝事件が、中国社会で大きな話題となったのは6月末のことである。
『法制ネット』に掲載された記事にはこんな見出しがつけられている。
〈同僚のパソコンの中にわいせつな動画を発見したエリートサラリーマンが、740万元(約1億2210万円)に相当するビットコインを恐喝〉
事件の舞台となったのは福建省福州市の大手不動産会社である。清華大学で修士までとったエリートサラリーマンの庄は、昨年9月、同僚の王から業務上の必要があってパソコンを借りることになった。そして使ってみると、なんとそのパソコンの中に、わいせつな動画がたくさん保存されていることを知ったのである。
庄は会社でも将来を嘱望される存在で、プライベートも充実していたといわれている。
だが、同僚の弱みを知った瞬間から変わってしまったのか、同僚をそれで脅すようになり、一回、また一回と要求を高めていき、ついには総額で740万元を超えるビットコインをせしめたというから驚きである。
事件自体は単純なものだが、突っ込みどころは満載である。そもそも、いくら発覚を恐れたとはいえ、これだけ金額を支払うことができることが不思議であるし、さらにこれほどの大金を積んで隠さなければならないほど重大な罪だったのか、ということだ。
その意味では被害にもあまり同情できない事件である。