実在の人物を主人公とした映像作品はいくつもあるが、存命中の人が対象となると、観ていて気恥ずかしい気持ちになりがちだ。企画とプロデュースを明石家さんまが手がけたことでも話題のドラマ『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』(Netflix)を視聴したイラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、ドラマと自分に起きた現実のアホみたいなホンマの話を振り返った。
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8月3日から4日まで大阪に行っていた。僕がイラストを担当した本『他人(ひと)も自分も自然に動き出す 最高の「共感力」 カリスマ広報マンが吉本興業で学んだコミュニケーション術』の打ち上げがあったからだ。本のタイトルから分かるように、著者の竹中功氏は元吉本興業(今のよしもとクリエイティブ・エージェンシー)の社員。しかも、専務取締役まで務めた大物である。
竹中さんが30年以上通う小料理屋「桧之川」で酒を飲む。ちなみに、お店のママは『ダウンタウンのごっつええ感じ』の名物コント「四万十川料理学校」で松本人志が演じた講師キャシー塚本のモデルだという。キャラの濃い人しかいない楽しい打ち上げ、しかしコチラとしては虎視眈々と狙っていた、質問の機会を。ただ大阪に来たわけじゃない……、吉本の大物だった人が持つ秘話を聞きたい! そんなスケベ根性を心に秘め来阪したのだ。
7月20日、有料動画サービスNetflixで『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』の配信が開始された。明石家さんまが初めてプロデュースした連続ドラマで、芸人・ジミー大西の成長が描かれる。物語は1982年、ジミー大西が吉本に雑用として雇われたシーンから動き出す。初回登場時の明石家さんまは関西では既にスターだが、国民的な人気は獲得していない。吉本興業の東京進出と躍進が始まる一歩手前の胎動状態。
そこにバリバリに関わっていたのが竹中さん、ドラマに描かれなかった裏話も知っているはず。飲み会も中盤になり温まってきた頃合い、僕は「竹中さん、『Jimmy』見ました?」と伺った。「いや、まだ見てないんだよね。どうだった?」と質問返し。「いや、面白かったですよ、ただ本当のところはどうだったのかな?と思いました」と返答。「見てないから何も言えないけど、僕は当事者じゃない。自分の話でもあるから真正面から見れないと思うなぁ」と竹中さん。打ち上げのノリで秘蔵話をゲットするスケベな未来予想図はここに破れたり。
ゆえに裏話はゲットできず、ここからドラマレビューとなる。
『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』は主演の玉山鉄二、中尾明慶にとってハードルが高いドラマであったに違いない。誰もが知っている国民的スター明石家さんま、そして芸人のなかでも特異なキャラクターを持つジミー大西を演じなければならない。特に明石家さんまを演じる玉山鉄二のプレッシャーたるや。もともと明石家さんま役を担っていたのは小出恵介。撮影終了していたにも関わらず、例の事件で小出パートがお蔵入りしたのは誰もが知るところ。玉山鉄二の出来が悪ければ「小出バージョンのさんまを見たかったなぁ」と視聴者は考える。
で、結論を書くと玉山鉄二演じる明石家さんまはかなり良かった。我々がテレビで見る快活さと舞台裏の天才ゆえの孤独を演じ分け。口調や特徴的な引き笑いも披露。しかし、明石家さんまをコチラも知りすぎているがゆえに、その再現だけは少々こっぱずかしくもあり(これは仕方ないことだが)。
ただ、なによりもグッときたのはジミー大西目線からの明石家さんま像。彼にとってさんまは人生を変えてくれたヒーローだ。『百獣戦隊ガオレンジャー』でガオシルバーを演じていた玉山鉄二、ヒーロー役はお手の物か。無茶苦茶カッコいい明石家さんまが似合っていた。
国民的英雄を演じることは、役者として美味しい。この役を身から出た錆で逃した小出恵介はもったいない。逆に玉山鉄二にとっては棚から牡丹餅。
主演を務める中尾明慶のジミー大西も素晴らしかったが、完璧と評したくなったのが大竹しのぶを演じた池脇千鶴。それこそあのまんまで、独特の話し方をドラマから浮かないテンションで再現していた。
明石家さんまとジミー大西の奇妙な信頼関係を描いた『Jimmy』は、今どき珍しいベタなドラマ。テイストでいえば、TBSで放送されていた昼の帯ドラマシリーズ『愛の劇場』シリーズに似ている。人間関係の複雑さ、伏線等が一切ないシンプルな作風。困っている人がいたら「親切にしよう!」なんてことが描かれる。それこそ、天才・明石家さんまが奇才・ジミー大西へ送る眼差しこそ人間愛の劇場。メッセージがシンプルなゆえに、深読みすることもなく素直に楽しめた。