「寄席に行ってみたくなりました」──。『ツレがうつになりまして。』などの作品で知られる細川貂々さんによる落語コミックエッセイ『お多福来い来い』を読んだある女性からこんな感想が寄せられた。落語家が座布団に座って、右、左を見ながらひとり喋る姿に、「落語って難しそう」と思っていたそうだ。違うんです、実は。
《楽しい!共感!実に面白い落語コミックエッセイ。落語ファンも、初心者も、是非読んでほしい。また、この落語との触れ合い方のニュートラルさ、素直さにすこぶる優しい気持ちになります。》
とツイッターでつぶやいたのは、放送タレントで落語家の顔も持つ松尾貴史さん。
《面白かった。素直に落語と向き合っているのが。無駄にマウントとる人が多い演芸界の中で。こういう見方が、新鮮で大事。》
とツイッターでつぶやいたのは、「今最もチケットが取れない講談師」と評される神田松之丞さん。
「今最もチケットが取れない落語家」と評される春風亭一之輔さんは本誌書評で、貂々さんが『替わり目』を聴いて「時代に合わない、全然笑えないっ!」と憤ったシーンを引き、
《凝り固まった落語好きには言えないセリフだ。落語家からすると耳が痛い。そうだ、こういう新鮮な意見が欲しいのだ。(中略)勉強になります!》
などと激賞した。
このように、『お多福来い来い』に関する2人のつぶやきや、一之輔さんの書評は大きな反響を呼んでいる。
ジュンク堂書店姫路店で話題書や人文書を担当する矢根寛子さんもこれらを読み、「そうだ、そうだ」と膝を打った。
「私は落語が好きで、落語に関する本は無条件に買ってしまうんですが、この『お多福来い来い』はパッと見て、表紙がかわいくて目を引きました。そして読んでみると落語の案内としてすごくいい温度感で、日常の中にも落語を見つける貂々さんの眼差しが優しくて、大好きです。
落語の入門書はたくさんありますが、そのほとんどは『これぐらい知っていないといけないよ』という内容で、座布団は、着物は、とか、知識を教えるものが多い。それでなくても落語は、聴いたことがない人からすれば、コンサートなんかと比べてハードルが高いのに、余計に敷居が高くなってしまいますよね。
でも、この本は貂々さんが落語を面白いと思ってハマったというより、どこが面白いのかなと思いながらつきあっていった、ということから始まって、落語との向き合い方がとても新鮮。知識も、教科書的に学ぶのではなく、貂々さんが『なんでこうなの?』と思った時に、その都度、落語に詳しい夫のツレさんが『こうなんだよ』と教えてあげる。
一之輔さんも書評で書いていらっしゃいましたが、『替わり目』なんて、よく考えたらすごい夫婦関係です。
それでも、登場人物を遠い昔の人で、自分とは関係ないと思うと、何も疑問は出てきませんが、貂々さんは身近な人として登場人物たちとつきあっているから疑問に思う。それでいて各演目の大事なところをきちんと掴んでいるので、すごいと思いました」(矢根さん)
※女性セブン2018年8月23・30日号