ビジネス

渋谷駅と池袋駅 総合開発を担う鉄道会社のライバル物語

渋谷は西口に東急王国、東口は西武による街

 それぞれ好みの違いもありそうだが、渋谷駅と池袋駅と聞くと、郊外の若者たちが集まるターミナル駅という共通点がある。どちらも、商業施設や住宅地などの総合開発を担う鉄道会社が切磋琢磨することで発展してきた。『ライバル駅格差』(イースト新書Q)著者の小川裕夫氏が、渋谷と池袋をあらためて比べてみた。

 * * *
 渋谷駅と池袋駅はともに副都心として指定されて以降、官民が開発に邁進してきた。

「若者の街」と形容される渋谷駅は、1885年に日本鉄道が高崎線・宇都宮線と東海道本線とを結ぶバイパス線として赤羽駅-新宿駅-品川駅間を建設した際に中間駅として開設された。

 駅開設当初の渋谷駅は、東京の片田舎という印象を拭えない街だった。その理由は、渋谷駅を拠点にしていた玉川電気鉄道(玉電)にある。

 玉電は多摩川から採取される砂利を運ぶための鉄道として開業。渋谷駅をターミナル駅としていた玉電の沿線は、農村が広がるだけだった。そのため旅客需要は乏しく、貨物を主体としながら苦しい経営が続いた。

 玉電の営業が好転するきっかけになったのは、1923年の関東大震災だった。都心部の家屋は軒並み倒壊し、辛うじて残った建物も震災後に発生した火事で焼失した。震災を教訓にして、政府や東京市は家屋の再建に地震や火災に強いコンクリート造を奨励した。

 そうしたこともあり、砂利需要は一気に急増。玉電の砂利輸送は活況を呈する。しかし、大量の砂利を採取したことで、多摩川の水質は悪化。河川保護を名目に砂利の採取は禁止されて、玉電は砂利輸送から旅客輸送へと軸足を移す必要に迫られた。

 玉電が旅客需要を掘り起こすべく取り組んだのが、沿線の宅地化とターミナル・渋谷駅の繁華街化だ。

 玉電の株主でもあった東京信託は、玉電開業当初から沿線での不動産事業を展開する機会を虎視眈々と狙っていた。東京信託は桜新町を開発して分譲。これが玉電沿線の人口を増加させた。桜新町は単なる住宅地の開発ではなく、”東京の軽井沢”を目指したリゾート開発でもあったが、今や世田谷区は宅地化が進んでしまい、リゾート地化は失敗に終わった。

 沿線開発ともうひとつの渋谷駅ターミナル化は、1938年に渋谷駅併設の玉電百貨店をオープンしたことで着々と進められていく。玉電沿線民が休日に渋谷にお出かけするというライフスタイルを創出した。

 渋谷駅の拠点力強化に乗り出したのは、玉電だけではない。東横電鉄も同様に渋谷駅をターミナルにしており、玉電としのぎを削った。

関連キーワード

関連記事

トピックス

女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
漫画家・柳井嵩の母親・登美子役を演じる松嶋菜々子/(C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
松嶋菜々子、朝ドラ『あんぱん』の母親役に高いモチベーション 脚本は出世作『やまとなでしこ』の中園ミホ氏“闇を感じさせる役”は真骨頂
週刊ポスト
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で発言した内容が炎上している元フジテレビアナウンサーでジャーナリストの長野智子氏(事務所HPより)
《「嫌だったら行かない」で炎上》元フジテレビ長野智子氏、一部からは擁護の声も バラエティアナとして活躍後は報道キャスターに転身「女・久米宏」「現場主義で熱心な取材ぶり」との評価
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン
元SMAPの中居正広氏(52)に続いて、「とんねるず」石橋貴明(63)もテレビから消えてしまうのか──
《石橋貴明に“下半身露出”報道》中居正広トラブルに顔を隠して「いやあ…ダメダメ…」フジ第三者委が「重大な類似事案」と位置付けた理由
NEWSポストセブン
小笠原諸島の硫黄島をご訪問された天皇皇后両陛下(2025年4月。写真/JMPA)
《31年前との“リンク”》皇后雅子さまが硫黄島をご訪問 お召しの「ネイビー×白」のバイカラーセットアップは美智子さまとよく似た装い 
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト