マフィアの世界では血の結束が叫ばれる。死をも厭わぬ覚悟が彼らを特異な集団たらしめている、というのがこれまでの通説だったが、近年の中国においては趣が異なるようだ。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
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もう十年ほど前から、中国の「黒社会」(マフィア)の世界では、抗争が起きても相手を殺すことはなくなったという。というのも殺人事件ともなれば、警察も徹底的して犯人を捜し逮捕するだけでなく、背後にある犯罪グループに対しても執拗に迫るからである。
こうした傾向は、習近平政権になってからは、より強化されてきた。世界的に有名だった東莞の歓楽街が、あっという間に“掃黄”(売春産業の一掃)されてしまったのは、記憶に新しいところだ。
だが、いくら掃除しても、こうした問題を撲滅することは難しい。それも一方の真実だろう。そのことを思わせる事件が発覚したのは、6月末のことだ。湖南省長沙市の人民検察は、銃や刀で武装した犯罪者グループの抗争にかかわったとして、93名の容疑者を逮捕したことを公表したのである。
事件を伝えた『澎湃新聞』の見出しは、〈売春チラシを配る犯罪グループが銃と刀で武装し激突 90人以上を逮捕〉である。
それにしても100人以上が路上で切り合ったのに、警察が駆けつける前にみな消えてしまい、また死者もいなかったという現場はどうなっていたのか。
「できるだけ殺人を避けようとするため、現場には指などがたくさん落ちていることが多い」
と社会問題を担当する記者は語るが、それはちょっとした恐怖の現場だろう。
一方、こうした事件が闇に葬られたままにもならないのが中国である。地元警察は260人体制で容疑者逮捕に臨み、10カ月の捜査を経て93人を逮捕、ピストル64丁を押収したという。
背筋が凍るような縄張り争いに警察の執拗な追及。こんなリスクを冒してもやめられないほど売春はもうかるらしく、『澎湃新聞』によれば、メンバーのうちの一人は、短期間で180万元(約2900万円)の家を建てていたという。