その主義主張には、きちんとした根拠があるのだろうか? と疑いを抱かずにはいられないような、極端な発言が国会議員や地方自治体の首長などからたびたび飛び出している。そのたびに、ネット上では賛意と反論が激しくぶつかりあっているが、肝心の当事者は置き去りで、なんのために彼らは争っているのかわからなくなる。ライターの森鷹久氏が、国会議員によるLGBTをめぐる偏った主張によって浮かび上がる、貧しい現実をレポートする。
* * *
各界に波紋を広げている、自民党の杉田水脈・衆議院議員による「LGBTには生産性がない」という主張。杉田議員に近しい支援者からは「言い方は過激ながら、言っていることは正論」といった声が聞こえてくるが、右派である筆者の周辺からも戸惑いの声は噴出しており、筆者自身も杉田氏の議員としての資質には疑問を呈せざるを得ない。
そもそも、杉田議員の言う「生産性」とはなんなのか?
「子を産むか産まないかが生産性というのなら、杉田議員のボス・安倍首相はどうなのって話。いくら国のために頑張っていようと、子供がいない生産性はゼロの男だということになる。言われた方の気持ちがわからないって、致命的よ」
こう見解を述べるのは、新宿二丁目のゲイバーに勤務する、元男性のサクラさん(仮名)だ。
杉田議員が月刊誌に寄せた文章を読むと、LGBTの人々に「税金を使うべきではない」、「かの方々は病気ではない」、さらに「生産性がない人々への支援に意味があるのか」といった主張がなされていることがわかる。子供を産まない人々について生産性がない、すなわち「価値がない」とも受け取られかねない発言で、「全文を読めば理解してもらえる」(杉田議員)といった反論はまったく弁解になってはいない。
ネット上では、神奈川県相模原の障がい者施設で19人を殺めた容疑者が語る「優生思想」そのものという指摘すらある。かつて同じ自民党議員から飛び出した「女性は子を産む機械」発言にも似た、自分以外の人間を認めていない極めて自分勝手で、危険な思考であることは明らかだろう。
「杉田議員も子を産む機械なのかしらね。女性という立場で女性をバカにするなんて、本当に理解できない」(サクラさん)
同じ新宿二丁目でLGBT向けの飲食店を経営するレズビアンのまりあさん(仮名・20代)も、杉田議員の主張には違和感を覚える。
「病気でないし、支援されなくとも、私たちは私たちで懸命に働き、生活しています。税金だって納めているし……。それを生産性がない、の一言でバッサリ切り捨てる。別に金銭的な支援が必要だとは思っていないし、それは政治家など外野の人たちが勝手に言っている事、大きなお世話。でも、生産性の一言で切り捨てるような考え方にはゾッとするし、共存共栄といいながら、たくさんの人を殺してきた戦前の日本みたい。自分の気に食わない生き方を選択している人々を粛正したいのでしょうか」(まりあさん)
LGBT当事者の皆さんに今回の「杉田発言」をどう思うか聞いて回ると、確かに報道や反杉田派議員らのテンションとの温度差を感じないわけでもなかった。まりあさんのように過剰な反論には「大きなお世話」という、冷静で落ち着いた見方をしている人が多い印象だ。
「子供が産めないことなんて、分かっています。だからゲイやレズビアンの私たちにとっては”だから何”という感じ。それよりもひどいのは、病気や様々な事情で子供ができない、生まれないという人々に、こんな乱暴な言葉がどう受け取られるか、まったく想像していないこと。唯一、杉田議員の主張の中で正しいのは”LGBTは弱者ではない”という部分でしょうか。
同性婚などの制度を拡充し“存在を認めて”とは考えますが、助けてくれとは思わない。ただ、やっぱり上から目線で“甘やかすな”みたいな主張は、現実を全く理解していないことの証左。一方で杉田議員を断罪する人たちの一部は、私たちを必要以上に弱者に仕立て上げようとする。あなたたちも声を上げなさい、弱者でしょ? と。LGBTのパレードにやってきて政治的な批判活動を行う……。結局、私たちは攻撃され利用されて、捨てられるんじゃないの? もうね、本当に放っておいてほしい。私たちで商売をする人たちのいやらしさに吐き気がする」(まりあさん)