人間社会では、大昔から、さまざまな情報の伝達が行われてきた。ただし、情報は、そのまま示すだけでは断片的なものとなり、なかなか人々の頭に入ってこない。そこで、ある工夫をすると、人々が受け入れやすく、記憶に残る情報となる。「ストーリー化」するのである。ニッセイ基礎研究所上席研究員の篠原拓也氏が、ストーリー化された情報の受け取り方や注意点について解説する。
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イギリスのE.M.フォースターという小説家は、どういう文が人々に受け入れられやすいかという実験をした。その中で、人々につぎの2つの文を見せて、どちらのほうが理解しやすいかを尋ねた。
(a)国王が逝去し、そして、王妃が逝去した。
(b)国王が逝去し、そして悲嘆のため、王妃が逝去した。
多くの人が、(b)の方が受け入れやすいと答えた。(a)の文は、2人の死を列挙したに過ぎない。一方、(b)の文は、2人の死の間に「悲嘆のため」という因果関係をつけて、2人の死をつなげている。つまり、ストーリー化している。
実は、コンピューターなどで扱う情報理論では、(a)の方が(b)よりシンプルで好ましいとされるようだ。(b)に出てくる「悲嘆のため」という部分は、何か証拠が示されない限り、単なる書き手の推測に過ぎず、事実かどうかが判断できないためだ。
しかし、人間の脳は、そのようにはできていない。脳は、事実の羅列ではなく、ストーリーを求めるのだ。
淡々と、事実だけを列挙した情報というのは味気ない。なかなか頭に入ってこない上に、記憶に残ることも少ない。人々の記憶に残るためには、ストーリー化が必要となる。企業が発する様々な宣伝はもちろん、メディアが出すニュースも、多くはストーリー化されたものとみるべきだろう。事実の列挙とストーリー化された宣伝文句では、読み手への訴求力が大きく異なると考えられるからだ。
次の例は、筆者が作った健康食品の架空の宣伝文句だ。