もうもうと絶え間なく立つ白い煙。時折、煙の隙間から串を返す職人の真剣な眼差しが見える──。
大正10(1921)年から京橋に店を構える老舗焼き鳥店『伊勢廣』の焼き台は、朝7時に炭を熾(おこ)してから閉店の21時近くまで、一日中フル稼働だ。真っ赤になった紀州産の姥目樫備長炭(うばめがしびんちょうたん)の上に、鶏の脂と肉汁、そして戦後の営業から継ぎ足しているタレが滴り落ちると、パチパチと音がして何とも言えない香ばしさが漂う。
本店の昼の部では、岐阜県は奥飛騨の米「乙女ごころ」を使った熱々の焼き鳥丼が評判だ。14時には一度のれんを仕舞うが、焼き台の職人は、日本橋高島屋の売店に卸す持ち帰り用の焼き鳥を焼き続ける。高島屋店の品は冷めてもなお炭火の香りが残り、肉の滋味がじんわり広がると評判で、購入客の8割がリピーターという人気ぶりだ。
路地の看板がほんのり光り出す頃、夜の部はコースのみの提供となり、ゆっくりと串を楽しめる。
「鶏の味を余すことなく味わってほしい」と考えた初代が、コース仕立てで焼き鳥を提供することを考えてから早97年。「フルコース(12品/6480円)」の献立は創業当時のまま、京橋に集う食通を今日まで満足させてきた。
タレ・塩の味付けも、各串の旨みを最大に引き出す組み合わせで提供してくれる。串のために選び抜かれた静岡県産の塩は、粒子の形が平たく舌の上ですっと溶け、繊細な味わいを生み出している。