【著者に訊け】道尾秀介氏/『スケルトン・キー』/KADOKAWA/1500円+税
〈恐怖〉は、人を狂わせる。一方で恐怖を一切感じられないことも、人を人ではなくしてしまうというから、人間とはつくづく厄介だ。
道尾秀介氏の新作『スケルトン・キー』は、19年前、ある男に散弾銃で撃たれた母親の胎内から取り出され、養護施設で育った僕、〈坂木錠也〉の数奇な運命を追う。バイク便稼業の傍ら、「週刊総芸」記者〈間戸村〉の下で日夜スクープを追う彼に、同じ施設で育った〈ひかりさん〉はかつて〈錠也くんみたいな人はね〉〈サイコパスっていうのよ〉と言って、こう教えてくれた。
〈発汗の度合いが低いこと。心拍数が低く、緊張時や興奮時にも心拍数の増加が見られないこと〉〈そういう人たちは、危険な見た目や雰囲気を持ってるわけじゃない。でも、他人に共感する度合いとか、恐怖を感じる度合いが生まれつき低いの〉……。
だから危険に身を晒し、心拍数増加作用のある抗鬱剤トリプタノールを常用してまで〈もう一人の僕〉を遠ざける彼を、しかしさらなる試練が襲い、〈道尾作品史上もっともダークな制御不能のノンストップ・サスペンス〉(帯より)は、その悲しく、残酷な幕を開ける。
「実はこれ、まだ構想もない段階で帯だけ先に考えてもらった、かなり面白い書き方をした作品なんです。ここに道尾の新作がある、それにどんな帯を巻きたいか、を編集者に考えてもらい、僕はそれをスプリングボードとして物語を構築した。その帯と今の帯はまた別物で、物語も別物ですが、今まで誰もやったことのない書き方をしてでも、小説を書くことに飽きたくなかったんです」
参考文献には中野信子著『サイコパス』が並ぶなど、彼らの内面を一人称で書くことは宿願でもあった。